では、「好きで好きでたまらない」といったロマンティックで非合理な感情はどこにいくかと言うと、ペットやアイドル、スター、アスリート、そしてキャバクラやホストなどに向かいます。「推し」という言葉が急速に広まったのは、リアルな恋愛が衰退する中で「好き」という感情の受け皿になったからでしょう。中には、アニメの登場人物などバーチャルなキャラクターに「恋愛感情」を抱く人もでてきました。一方、既に結婚している夫婦はどうなっているでしょう。特に、中高年層は――。
私は、40年以上、家族社会学者として夫婦を調査研究してきましたが、見合い結婚が主流だった昭和の中年夫婦は、あまりコミュニケーションがなくてもなんとなしに仲が良いという夫婦が大半でした。しかし、現在の中年夫婦の多くは、バブル期に情熱的な恋愛をした、もしくは憧れた人だったはずです。彼らは、どのように結婚して、どのような夫婦関係を築いているのでしょう。
結婚した三組に一組は離婚する時代になったとはいえ、三分の二は一生連れ添う夫婦です。調査すると、夫婦の仲の良さの二極化というべき事態が起きているのに気づきました。インタビューする中で「今でも外で手をつないでイチャイチャするけど、時々不倫カップルに間違えられるんだ」という50代夫婦もいれば、「夫が寝たきりになったら復讐してやる」と真顔で話した40代女性もいました。詳しくは本書で確認していただきたいのですが、2022年の私の調査では、「外で手をつなぐ」ことがある50代夫婦は約四分の一、バブル期の若い頃は当然手をつないでいたでしょう。むしろ30年経った今でも四組に一組は手をつないで外出するのがむしろ驚きでした。他方で恋愛感情を持ち続ける夫婦、他方で口も利かずいがみ合う夫婦、親密な関係においても多様であるのが現在の中年夫婦像です。
今が、恋愛感情と結婚生活の関係を再考すべき時代になっていると感じます。カップルにどのようなものを求めるのか、どれだけ相手の求めに応えられるか、個々のカップルが考えなければならなくなっています。その中で、「お互いがコミットする関係」として、カップル関係を再構築できないか、そのような思いで本書を書き上げました。今後の夫婦関係(もちろん、事実婚でも同性カップルでも)を考えるきっかけにしてもらえればうれしいです。