『パラサイト難婚社会』
朝日新書より発売中

 数年前、ゼミの女子学生から「先生、一時の恋愛感情で結婚してはいけませんよね」と聞かれ、どうしてそう思うかと問うと「恋愛感情はどうせ2、3年で冷めますよね」と言われ、驚いたことがあります。今の若者からみれば、こちらが驚くのが驚きかもしれないけれど。

 私が大学で教えるようになったのは、1986年、今から思えばバブル経済の真っ最中。「Japan as No.1」と言われ、日本の将来は明るく思え、若者に活気があった時代でした。当時の若者には、結婚を先延ばしにして、恋愛を楽しもうという雰囲気が強くありました。実際に、ユーミンの歌やトレンディドラマに出てくるような恋愛を経験する人は少なかったにしても、おしゃれな恋愛に憧れる若者は多かったように思います。結婚と恋愛は別、だから結婚を脇に置いて、好きになった相手と恋愛を楽しむ、そんな生き方が格好いいという時代でした。

 バブル経済が崩壊し、就職氷河期が到来し、1997年にはアジア金融危機が起きました。日本経済が停滞する中で、若者を巡る状況も大きく変わりました。

 白河桃子さんとの『アエラ』での対談の中で「婚活」という言葉を編み出したのは、2007年のこと、今では多くの辞書にも載るまでになりました。その頃には未婚率が高まり、「結婚したくてもできない」「そもそも出会いがない」という現実に、若者は気づき始めます。未婚化の主因は、結婚生活を始めるのに十分な経済的な見通しが立たないことにあります。だから、女性も経済的に自立すれば、恋愛感情で結婚相手を選ぶことができ、結婚が増えるだろうという思いで「婚活」を提案したつもりでした。しかし、収入が安定した相手と早く結婚しなければ将来やっていけなくなる現実がみえてしまい、かえって恋愛から若者を遠ざける言葉となってしまったのは予想外の展開でした。

 令和に入った今、冒頭の女子学生のように、結婚には恋愛感情不要どころか邪魔。将来子どもを育てながら一緒に生活できる相手を合理的に選ぼうとする若者が増えている気がします。まるで、仕事のプロジェクト実現のために最適の相手を選ぶような感覚です。特に婚活現場ではプロフィールで相手を選ぶので、「データ婚」と呼ばれるまでになっています。そして、こうした難婚問題がパラサイト・シングルと同根課題であるのは、本書でお確かめください。

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