芸人さんと、ファン活動だけではなくつながることのできる仕事や立場は色々とあると思います。今しているお仕事の中でも、何かしらそういう企画が考えられるかもしれません。たとえばあなたが図書館の司書さんであればとりあえず彼と親交がありそうな読書芸人を呼ぶ企画を考えるとか、農業であれば農業仲間と農産物フェスを企画して余興に呼ぶとか、あるいは仕事でつながりにくければ、副業で何かを開発して有名になるとか、趣味のお菓子作りや絵画、アングラな場所の散歩情報などでSNSを始めてみるとか。芸人さんの活動って意外と幅広いですから、割と現実的につながりができて、そこから恋が始まるかもしれません。

 もしかしたらその仕事や企画に夢中になっている間に、その芸人さんへの恋心は鎮火してしまうかもしれません。全然別の仕事をしている人を好きになったり、新しい彼氏ができたりするかもしれません。でもそれはそれで、仕事や趣味の幅が思いっきり広がるのだから、いいじゃないですか。私は別にもう例のバンドマンも、その後に好きだった人も微塵も興味はなくなりましたが、物書きの仕事は割と楽しくやっています。沼は抜け出したほうがよい沼もあるとは思いますが、沼のぬめりや温度は癖になるものだったり、その沼の底に宝がうまっていたりするわけで、他人からは無駄な時間で無駄な行為に見えるような沼であっても必ずしも急いで抜け出す必要などない気がします。

著者プロフィールを見る
鈴木涼美

鈴木涼美

1983年、東京都生まれ。慶應義塾大学在学中にAV女優としてデビューし、キャバクラなどで働きつつ、東京大学大学院修士課程を修了。日本経済新聞社で5年半勤務した後、フリーの文筆家に転身。恋愛コラムやエッセイなど活躍の幅を広げる中、小説第一作の『ギフテッド』、第二作の『グレイスレス』は、芥川賞候補に選出された。著書に、『身体を売ったらサヨウナラ 夜のオネエサンの愛と幸福論』『非・絶滅男女図鑑 男はホントに話を聞かないし、女も頑固に地図は読まない』など。近著は、源氏物語を題材にした小説『YUKARI』

鈴木涼美の記事一覧はこちら
暮らしとモノ班 for promotion
台風シーズン目前、水害・地震など天災に備えよう!仮設・簡易トイレのおすすめ14選