空いているポジション
それならば、どうしたらよいのか。基本的な構図を再確認しよう。かつて最も多くの人々の支持を集めていた中道は、今や魅力を失い、人々を惹きつけない。その中道に位置を占めているのがバイデンだ。バイデン単体では、いかなる力も働かない。
トランプは、大きく右寄りにいる。そのことによって、中道のもつ弱点、中道のもつ偽善性を明示的に指摘するものになっている。その指摘の仕方はきわめて下品な、反PC的なものだが、それがかえってよい。PCの欺瞞をパフォーマティヴに指し示すことになるからだ。そしてまた、国民に庶民的な親しみを感じさせるからだ。こうして、トランプは、リベラルな中道が主導する世界で冷遇されていると思っている(誤解している)人々にとっては、救世主のように見えてくる。しかし、これは誤った幻想である。
ともかく、トランプが入ったことで、政治の場に力が働き始めた。トランプへの引力がまず発生するのだ。そうである以上は、その引力に抵抗する力、トランプに抗する斥力も発生する。その斥力を活用しているのがバイデンである。
ともかく、2020年の選挙でバイデンは勝った。しかしバイデンが代表している中道のイデオロギーには、もはや魅力がない。それは、トランプに魅了された7千万人以上のアメリカ人を救済し、あらためて「ひとつのアメリカ」に統合する力をもたないだろう。
バイデンは、トランプ以上のことはできないだろう。彼は、実質的にはトランプがやったことを、上品な言葉や態度で繰り返すだけだろう。しかし、もしバイデンがトランプと同じことしかできなければ、2024年には、トランプ(的な人)の復活、その真の勝利が待っている。
どうしたらよいのか。だがここでもう一度基本的な構図を見直そう。「中道vs.右」。はっきりと空いているポジションがある。「左」である。「中道vs.右」の対立で、主導権を握るのは、「右」だった。中道の魅力が完全に枯渇してしまっていたからである。しかし、その枯渇に対応するやり方は、「右」にシフトすることだけではない。「左」にシフトする方法もあるはずだ。アメリカ人は伝統的に、「左」を、つまり社会主義を連想させる政治を嫌悪してきた。
しかし、ほんのちょっとだけ振り返ってみればよい。トランプ並みに、人々を熱狂させた大統領候補もいたではないか。バイデンは、支持者を熱狂させなかったが、その候補者は、熱狂させた。しかも、その支持者の大半は、トランプに反発した層、ミレニアル世代とかZ世代とか呼ばれる若い人々だった。どの候補者のことを言っているかわかるだろう。サンダースである。サンダースはあまりにも「左」寄りで、社会主義的だとして、民主党の大統領候補に選出されなかった。トランプに真に打ち勝ち、その悪夢を追い払う唯一の道は、「左」にある。サンダースであるかどうかは別として、ほんとうの答えは「左」にある。真に勇気をもって、はっきりと「左」への道をとったときだけ、アメリカは、2024年の大統領選で、トランプの復活を防ぐことができるだろう。