※写真はイメージです。本文とは関係ありません(silvermanmediaservices / iStock / Getty Images Plus)

 2024年11月に実施されるアメリカ大統領選挙。全世界に影響を与える新大統領の座は、バイデン大統領とトランプ前大統領で争われる公算が大きくなってきた。前回の大統領選直後の2020年12月に、「バイデンの勝利が真の敗北の原因になるとしたら……」という論考を「一冊の本」という月刊誌で発表したのが社会学者の大澤真幸氏。大澤氏の論考は、これまでの流れを見事に予言していて、このままいけばトランプが再選する可能性も十分にある。『この世界の問い方──普遍的な正義と資本主義の行方』(朝日新書)に収録された大澤氏のこの論考の後編をお届けする。

※前編「【予言的中】『とても嫌な予感がする』とバイデン当選直後に、4年後のトランプ立候補と大統領返り咲きまでの流れを予言していた、2020年12月発表の論考を特別公開」よりつづく

救済者はやってきた?

 順を追って考えてみよう。「左翼/右翼」という伝統的な軸を使って測れば、バイデンのポジションは中道である。アメリカのリベラルは、国際的な基準では──左ではなく──むしろ中道だ。アメリカでは、ほんとうの左翼(社会主義)は嫌われてきた。中道の中の中道ともいうべきバイデンは、最も広く支持を集められるだろうと見なされ、民主党の候補者に選ばれた。トランプはどうなのか。彼はもちろん、はっきりと「右」である。

 繰り返し言われてきたように、トランプの支持者は熱狂的である。バイデンを熱狂的に支持している人はほとんどいない。バイデン支持者は、熱狂的にトランプに反発しているのだ。だから、選挙全体の構図を規定している原点は、トランプの方にある。対決しているのは、トランプへの引力とトランプに対する斥力である。どちらの力もトランプに発しているのであって、バイデンは関係がない。

 バイデンが占めているポジションは、誰からも支持されるはずの中道だった。しかし、中道には、人を惹きつける力はほとんどない。リベラルな中道に属する主張は、おおむね「正しい」とされているだろう。その正しさは、「ポリティカル・コレクトネス(PC)」の意味での正しさだ。しかし、いかに正しくても、それらには魅力が欠けている。それどころか、それらはときに(一部の人には)偽善や欺瞞にすら見えているだろう。

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