AERA 2024年2月19日号より

高齢者無職世帯の仲間

 このケースは独身だが、それぞれの世帯の形に合った早期退職後の人生設計は、どう考えればいいか。ミニマムではない方向で、夫婦2人なら?

「まず出ていくお金、生活費から整理しましょう。総務省の家計調査(2022年)によれば、毎月の生活費が60代夫婦で約28万円、70代で約24万円、80代以上で約20万円でした。定年退職後の生活を前倒しにするわけですから、高齢者無職世帯の数字を参考にします。自由に少しは働くにしても、この層に早めの仲間入りをするわけなので」

 早期退職の年齢により、年金の金額が変わることにも注意。

「『ねんきんネット』で自分の年金額を試算してください」

 小さな子どもがいる人は、子育て費用や学費もかかる。

 気になるのは「増やすお金」の部分。よく見かける、「年平均5%で増える見込み」というリターン予測は現実的か?

全世界株式インデックス投資信託を保有していると仮定すると、年換算で5%ずつ増える見通しは問題なさそうです。GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は、外国株式の期待リターンを7.2%と推計しています。JPモルガンの超長期予測(24年版、円ベース)では世界株式5.2%という記載が見られます。ただ、預金のように『毎年決まって5%ずつ増える』わけではありません。引き出すときの相場次第で最終リターンは大きく変わります」

20年後の残高検証

 そこで過去の相場データを使った検証を、ニッセイ基礎研究所主任研究員の前山裕亮さんに頼んだ。1989年に会社を辞めたとして、その時点の評価額が2千万円なら年120万円、3千万円なら年180万円を引き出し続ける。20年後の2009年に資産はいくら残っていたか? S&P500と全世界株式でそれぞれ計算。同じ要領で、90年引き出し開始、91年引き出し開始……と、直近で「03年開始・20年後は23年」まで、15パターンの検証結果が出た。

「一番よかったのは94年引き出し開始です。当初2千万円のS&P500は年120万円ずつ引き出し続けても20年後に8856万円、全世界株式は4297万円が残っていました」

 同じく94年から年180万円ずつ引き出し開始で当初3千万円のS&P500は20年後に1億3283万円、全世界株式は6445万円の残高。

「97年引き出し開始から雲行きが怪しくなります。当初2千万円のS&P500は20年後の17年に276万円、全世界株式は400万円。99年引き出し開始の場合、S&P500も全世界株式も17~19年間で20年より早めに資産が枯渇しています」

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