意外に思われるかもしれませんが、私もかつてはパソコンをそれなりに使っていました。東大の教授をしていた頃で、手元を見ずにキーボードを打つくらいのことができました。パソコンを触らなくなったのは、定年を迎える少し前に『失敗学のすすめ』(講談社)という本を世に出してからです。以来、失敗の専門家としていろいろなところから仕事の依頼が舞い込むようになり、とにかく忙しくなりました。その頃は自分でメールを打ち返す時間もなく、それら一切を事務所のスタッフに頼るようになりました。その結果、いつの間にか完全に自分で操ることができなくなっていました。

 これはおそらくパソコンへの関心や興味がまったくなくなったことが原因です。そのものを扱わなくなったときから対象への興味や関心がなくなり、簡単な操作方法まですっかり忘れてしまったのです。

 もともと理解できない上に、あまり価値を感じていないものに、興味や関心を持つ努力をすることは簡単ではありません。現状は、必要に迫られて家族との連絡にスマホのメール機能を使い、仕事で行うZoom会議用にタブレットやパソコンを利用しているという程度です。デジタル機器に大きな価値を感じることはできないので、熟達するどころかふつうに使いこなすレベルに到達することも、いまはあきらめています。

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