意外に思われるかもしれませんが、私もかつてはパソコンをそれなりに使っていました。東大の教授をしていた頃で、手元を見ずにキーボードを打つくらいのことができました。パソコンを触らなくなったのは、定年を迎える少し前に『失敗学のすすめ』(講談社)という本を世に出してからです。以来、失敗の専門家としていろいろなところから仕事の依頼が舞い込むようになり、とにかく忙しくなりました。その頃は自分でメールを打ち返す時間もなく、それら一切を事務所のスタッフに頼るようになりました。その結果、いつの間にか完全に自分で操ることができなくなっていました。

 これはおそらくパソコンへの関心や興味がまったくなくなったことが原因です。そのものを扱わなくなったときから対象への興味や関心がなくなり、簡単な操作方法まですっかり忘れてしまったのです。

 もともと理解できない上に、あまり価値を感じていないものに、興味や関心を持つ努力をすることは簡単ではありません。現状は、必要に迫られて家族との連絡にスマホのメール機能を使い、仕事で行うZoom会議用にタブレットやパソコンを利用しているという程度です。デジタル機器に大きな価値を感じることはできないので、熟達するどころかふつうに使いこなすレベルに到達することも、いまはあきらめています。

著者プロフィールを見る
畑村洋太郎

畑村洋太郎

1941年東京生まれ。東京大学工学部卒。同大学院修士課程修了。東京大学名誉教授。工学博士。専門は失敗学、創造学、知能化加工学、ナノ・マイクロ加工学。2001年より畑村創造工学研究所を主宰。02年にNPO法人「失敗学会」を、07年に「危険学プロジェクト」を立ち上げる。著書に『失敗学のすすめ』『創造学のすすめ』など多数。

畑村洋太郎の記事一覧はこちら
暮らしとモノ班 for promotion
台風シーズン目前、水害・地震など天災に備えよう!仮設・簡易トイレのおすすめ14選