でも、それを馬場さんが言うと馬場さんの格が落ちるから、いつもそういう憎まれ役になるのは元子さんだったんだよね。元子さんに言われる分には「この野郎」で終わるけど、馬場さんに言われたら、馬場さんの威厳も無くなってしまうからね。
どこでも「元子の野郎!」っていう文句は聞いていたけど、それも全部全日本プロレスの質を落とさず、馬場さんを高みに持っていくためにやっていたことで、社員でも生意気だと「あなた嫌いよ、明日から来なくていいわ」っていう調子だったからね。
だから、元子さんのことはハッキリして付き合いやすいという人も多かったよ。元子さんは嘘はつかないからね。元子さんはたったひとり、馬場さんにぴったり寄り添って、最後まで馬場さんだけの味方で、ほかの選手に近づいて、美味しいことや調子のいいことを言ったりはしなかった。
馬場さんにとっていい右腕
普通だったら、馬場さんや会社や選手の間に入って、裏で選手の根回しとかするもんだけど、絶対に馬場サイドからしか物を言わないし、根回しもしない人だった。馬場さんにとってはいい右腕だったわけだ。
かといって、ビジネスパートナーというわけでなく、周りに人がいないときは「馬場さん、馬場さん」と甘えるのが上手くて、見ている俺の脇から冷や汗が出るくらいの甘えぶりだったよ。馬場さんにしても信頼しているし、可愛くてしょうがない女性だったからね。
二人は大恋愛で結婚したし、元子さんは50歳になっても可愛らしさを持っていたし、少女みたいな一面があったからね。それが男社会のど真ん中にいて大変だったと思うし、誰に対しても平気で物を言う性格だったけど、うちの女房とはフラットに接してくれていたから馬が合ったのかな。一方で、ジャンボ鶴田の奥さんとはイマイチ合わなかった(笑)。
全日本の選手とその家族で海外に行ったとき、現地の空港スタッフに元子さんが英語で話しかけたら聞き返されて、そこで元スチュワーデスのジャンボの奥さんがペラペラの英語で話したら、元子さんの機嫌が悪くなったこともあったね。
それから、元子さんとうちの女房とジャンボの奥さんの3人でテレビに出るときに、元子さんとジャンボの奥さんの衣装の色がかぶって、俺の女房が間に挟まって大変だったこともあったよ。