問題の箇所は三つ目の「年次不明記事群」にあり、道長らしき人による「局訪問事件」はその末尾に記されている。ただ、そこにはこの訪問者が道長であるとは記していない。推理するためには直前の記事から読み始める必要がある。

源氏の物語、御前にあるを、殿の御覧じて、例のすずろごとども出できたるついでに、梅の下に敷かれたる紙に書かせ給へる、
  すきものと 名にし立てれば 見る人の 折らで過ぐるは あらじとぞ思ふ
給はせたれば、
  「人にまだ 折られぬものを 誰かこの すきものぞとは 口ならしけむ
めざましう」
と聞こゆ。

(『源氏の物語』が中宮様の御前に置かれていたのを道長様がご覧になって、いつもの戯れごとを口にされるついでに、おやつの梅の実の下に敷かれていた懐紙に、こう書きつけられた。
  梅の実は酸っぱくておいしいと評判だから、枝を折らずに通り過ぎる者はいない。さて『源氏物語』作者のお前は「好きもの」と評判だ。口説かずに通り過ぎる男はいないと思うよ

殿がこの和歌を私に下さったので、私は申し上げた。

「あら、この梅はまだ枝を折られてもいないのに、誰が『酸っぱい』と口を鳴らしているのですか? 私だって同じ。まだ殿方とお付き合いをしたこともございませんのに、どなたが『好きもの』などと言い慣らわしているのでしょうか?
心外ですこと」)

(『紫式部日記』年次不明記事群)

暮らしとモノ班 for promotion
夏の大人カジュアルに欠かせない!白のレザースニーカーのおすすめは?
次のページ
道長のセクハラとパワハラ