本連載の書籍化第5弾!『鴻上尚史のおっとどっこいほがらか人生相談』(朝日新聞出版)
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【鴻上さんの答え】

 こまちさん。こまちさんの考えは決して被害妄想ではないと思いますよ。

 性被害にあった人に対して、ネット上で、攻撃したり、揶揄したり、笑ったりする人達が、深刻な問題になっています。

 性被害にあった人達をさらに攻撃する「セカンド・レイプ」という言葉も定着してきました。

 どうして、加害者ではなく被害者を責める人が多いのか。

 いくつか理由はあると思います。

 僕が一番に浮かぶのは、「公正世界仮説」という考え方です。

 割と知られている社会心理学用語ですが、ご存知ですか?

 ざっくりと説明すれば、「この世界は公正である」という思い込みです。

 世界は公正・公平だから、良いことをした人には良いことがある、悪いことをした人には悪いことがある、それがこの世界のルールだ、という信念です。

 子供の頃に接するおとぎ話や童話は、ほとんどが「公正世界仮説」を私達に根付かせる物語です。悪い奴はこらしめられ、善人は最後に救われて、がんばれば願いはかなう。

 私達の心には、「世界は公正・公平である」という思い込みがしっかりと根付いているのです。

 さて、こまちさん。「公正世界仮説」を強く信じている人が「世界は公正じゃない」という現実に直面した時にどう感じると思いますか?

 その現実を受け入れてしまうと、「世界は公正じゃない」という事実を認めてしまうことになります。そうすると、その人の「公正世界仮説」は崩れます。

 じつは、「公正世界仮説」を信じることは、前向きに生きることです。

 私達は「公正世界仮説」によって、努力すればうまくいく、がんばれば報われる、良い行いには良い結果がついてくると信じられるからこそ、毎日、歯を食いしばって前向きに生きていけるのです。

 だって、「努力しても結果は分からない」とか「良い行いをしても悪い結果になることもある」なんて思っていたら、なかなか、がんばれません。

「公正世界仮説」を信じることは、毎日を安心して生きる方法なのです。

 ですから、多くの人は自分の信じている「公正世界仮説」を守ろうとします。

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「世界は公正・公平である」という思い込みを守る