ここでみんなでご飯食べたなとか、ここで寝て、ここで勉強したな、とか思い出しながら家の中を回る。それが十分済んだ時に次の段階に行けるんじゃないかと思いました。思い出や空気を自分の体内に受け取り尽くすみたいな感じで、自分の中で「もう受け取ったな」というタイミングが来たら、片付けに着手すればいいのではないでしょうか。
そしてこの方にとって叔母さんの存在はすごく大きなものだったんだろうと予想されます。自分が大好きだった人にもう会えなくなったり亡くしてしまったりした時に、僕はよく、隣にその人がいると仮定して話しかけたりします。
イメージとしては、川の土手みたいなところに横並びに座って、一緒に夕日を眺めながら、「今日こんなことがあったよ」とか、「来月試験があるんだ」みたいにお話をしている感じです。
人生の大事な決断や、日々生きていくことに対してもちゃんと報告する相手を持つことは、大事なこと。それは、いなくなってしまった人にしかできない役割の一つであるような気がします。
弱っている時に一番やらなくていいことが「心機一転」です。全部を清算することなんか絶対やらなくていいし、整理をつけることもやらなくていいです。その思いと共に生きていくことだけ、やっていればいいと思います。
※AERA 2024年2月5日号