過労死した神戸市の男性医師の遺族らは、昨年12月に「医師の過労死家族会」を発足させ、医師が健康的に働ける環境づくりを目指す
この記事の写真をすべて見る

 現代日本の社会問題の一つといわれる過労死。働き方改革により、労働環境の改善が進められてきたが、過重労働が原因で、健康を損ね、命を失う人は後を絶たない。誰もが安心して働ける職場を実現するには、どうすればいいか。AERA 2024年2月5日号より。

【写真】この記事の写真をもっと見る

*  *  *

 今、問題になっているのが医師の過労死だ。

 22年5月、神戸市の病院に勤務していた男性医師(当時26)が自ら命を絶った。長時間労働でうつ病を発症したのが原因として、労災認定された。男性医師は亡くなる直前1カ月の時間外労働が200時間を超えていた。休日も約3カ月なかった。

「自己研鑽」や「宿日直」で、“定額働かせ放題”の状態

 医師の労働問題に詳しい荒木優子弁護士は、「医師の労働時間は、事実上青天井」と指摘する。

「医師は、適切に労働時間管理がされていないケースも多く、長時間労働を前提で働いています」

 特に問題とされているのが「自己研鑽」だ。医師は、医療行為以外にも、日々進化する医学の勉強や学会での発表など、付随的な業務が多岐にわたる。しかし、それが「上司の指示でなかった場合」は自主的に勉強する「自己研鑽」として扱われ、労働時間に該当しないとされてきた。

 神戸市の男性医師が自死したケースでは、病院側は月約200時間の時間外労働には自己研鑽の時間も含まれ、実際の残業時間は約30時間だったと主張している。荒木弁護士は言う。

「真面目で向上心が強い医師ほど自己研鑽が多くなる傾向があり、病院は、医師に給与を支払わないロジックとして自己研鑽を用いています」

 あと一つ、「宿日直」も医師の長時間労働に直結していると荒木弁護士は指摘する。夜間や休日に医師が院内で待機する「宿直」や「日直」は、本来は「病室の巡回」程度で「ほとんど労働する必要がないこと」が前提で、睡眠時間も十分とれることになっている。

「しかし実態は、救急患者が運ばれたり入院患者の容体が急変したりすると対応しなければいけません。そして、病院が労働基準監督署から『宿日直許可』を取得していれば、実際に業務に従事した時間を除いて労働時間にカウントされません。こうして、医師の労働時間は『定額働かせ放題』の状態になっています」(荒木弁護士)

著者プロフィールを見る
野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

野村昌二の記事一覧はこちら
次のページ