「ただ、個人で会社に要求しても、応じてもらえなかったり取り合ってもらえなかったりします。個人で会社と交渉するのは難しいので、労働組合に加入し、団体交渉によって『長時間労働を是正してほしい』などと要求するのが、最も有効な方法だと思います。今は私たちのようなNPO法人や労働組合など、一人でも加入できる労働組合もたくさんあります」
夫の彰さん(当時49)を過労死で亡くした寺西笑子(えみこ、75)さんは、彰さんの死後、責任を取ろうとせず保身に走る会社に怒りを覚えた。だが、彰さんが亡くなった96年、過労自殺の労災認定基準はなかった。約1年後、藁にもすがる思いで電話相談「過労死110番」に連絡し、労働問題に詳しい弁護士とつながった。約2年がかりで内部資料や同僚の証言を集め労災を申請し、2001年に労災と認定された。さらに、会社と当時の社長を相手に起こした民事訴訟でも謝罪を引き出し、06年に和解に至った。
今、寺西さんは「全国過労死を考える家族の会」の代表世話人として、「過労死ゼロ」を掲げ、過労死防止の啓発の講演など活動を続ける。夫が亡くなった28年前と比べ、利益優先の経営者側の考え方は今の方が悪質になっていると感じている、という。
「企業にとって労働者は一つのコマかもしれませんが、人はロボットではありません。意思を持った人間であり、家族にとってかけがえのない大切な命です。経営者は、職場環境を改善し、労働者が健康で安心して働ける仕組みをつくってほしい」
労働者は、一旦精神疾患になると仕事への復帰が難しくなる、死んでからでは遅いので、違法な働かせ方に気づいたらすぐ専門窓口に相談してほしいという。そしてこう呼びかける。
「命より大事な仕事はありません」
(編集部・野村昌二)
※AERA 2024年2月5日号より抜粋