受賞が決まり、会見に臨む(右から)九段理江さん、河崎秋子さん、万城目学さん=2024年1月17日、東京都千代田区
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 芥川賞・直木賞の受賞作が発表されたが、直木賞は稀に見る激戦だった。受賞作だけでなく候補作も必読の今回の直木賞を紹介する。AERA 2024年1月29日号より。

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 第170回芥川賞・直木賞の選考会が1月17日に東京で開かれた。芥川賞の受賞作は九段理江「東京都同情塔」に、また、直木賞は河崎秋子『ともぐい』と万城目学『八月の御所グラウンド』の同時受賞に決まった。

 選考が紛糾したのは直木賞の方だった。議論は3時間に及び、選考後の講評で選考委員の林真理子が「非常にレベルが高い選考会となり、時間がかかりました」と述べていたことからも、その白熱ぶりがうかがえる。

加藤シゲアキも候補に

 めでたく受賞者となった河崎秋子は北海道で酪農を営む農家出身の小説家。これまでも動物の生と死の尊さを見つめてきた河崎の今作は、日露戦争を背景に、北海道で暮らす一人の猟師との闘いを通して生命の重さを問いかける小説だ。一方、万城目学は6度目のノミネート。映画化された『鴨川ホルモー』は京都の街を駆け回る青春群像劇として話題を呼んだが、駅伝と野球を主題に選んだ今作もまた京都を舞台とした青春小説である。

 今回の直木賞候補作の中で最も注目を浴びたのは、加藤シゲアキ『なれのはて』だった。アイドルグループ「NEWS」のメンバーである加藤が直木賞にノミネートされるのは前作『オルタネート』に続いて2作目。今作はテレビ局社員の主人公が、60年近く前に消えた一人の画家の謎に迫りながら、人間の生を翻弄し続けた戦前・戦後という時代そのものを描いた重厚な小説だ。

 加藤は今作の執筆にあたり「自分が読んでより楽しめるもの。そして自分が書きたいもの。加えて自分が書かなくてはいけないものがあるんじゃないか」と考え、「若い読者の方に向けるというよりは、僕個人にまずは向けて書いてみよう」と決意したと語る。秋田県の土崎空襲を題材とした今作は、実際に同地区で空襲の被害に遭った自身の祖母の戦争体験を織りこんだものだ。加藤にとって「自分が書かなくてはいけないもの」とは、戦争の記憶を継承するための物語だったのである。

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