東京都消費生活総合センターの高村淳子・相談課長=米倉昭仁撮影

 以前の典型的な例としては、大学のサークル内で先輩が後輩を投資に誘ったり、友だちに声をかけたりするケースが多かった。

「学生の投資トラブルといえば、『52万5000円のバイナリーオプション』というくらい、都内のどの大学でも手口と金額が判で押したように同じだった」

 と、高村さんは振り返る。

 バイナリーオプション取引とは、あらかじめ決められた時点の為替相場などの騰落を予測し、ある値よりも高いか低いか、二者択一で選ぶ取引。仕組みは簡単に見えるが、実は知識や経験が必要なリスクの高い取引でもある。「簡単に稼げるよ」と言われて取引ソフトウエアの入ったUSBを購入したものの、多くの場合、利益は出ない。
 

 学生がそのようなものに手を出してしまう背景には、厳しい生活がある。

 大学生の多くが奨学金を受給しており、就職と同時に返済が始まる。家族も生活が苦しく、投資を学ぶことで将来に備えたいという気持ちがある。学生ローンなどで金を借りて、USBの購入費用にあてるケースが多かったという。

 そして借金を抱えた学生に、元締めのような学生から「一人を誘えば7万円もらえる」と声がかかり、バイト代だけでは借金返済が追いつかない学生が、お金欲しさに友人を誘うようになってしまう。友人に借金を背負わせてしまった罪の意識から、加害者が被害者の手を引いて相談にきたケースもあったという。

 一方、後輩や友人から金をだまし取ることに躊躇しない人間もいる。投資に誘った人数が増えるほど金回りがよくなり、仲間内での地位が上がっていくのだ。

「カリスマ起業家みたいな雰囲気になって、羽振りのいい生活をしていると、投資で儲けているらしいよ、とうわさが立つわけです。そうすると、あのUSBを買えば豊かな暮らしができると思う人が増えていく」
 

アプリで後腐れがなくなった

 ところが、新型コロナによって、そんな状況は一変する。
 

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コロナ後、手口はさらに悪辣に