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理不尽で不条理な光景
東日本大震災の被災地を撮影した作品「ATOKATA」を11年夏に発表したときのインタビューでは、大手広告代理店の担当者からこう釘を刺されたことを口にした。
「この作品についてはあまりしゃべらないほうがいいですよ」
そこに写っているのは多くの写真家が訪れた東北地方沿岸部だが、篠山さんのような視点で写した作品は見たことがない。
「もう信じがたい光景なわけですよ。こんな言い方をすると、被災者に対して失礼かもしれませんけれど、美しいんだよ。本当に美しい。現代美術の美術館を歩いているみたいだった。ありえない造形、光景なんだよ」
多くの犠牲者を出し、その爪跡が生々しい被災地。そこで一瞬のうちに起きたことは、自然のすさまじいエネルギーが自らを壊して新たに自然を生み出しているように見えたという。「美しい」という言葉が口をついて出たのは、犠牲者の命や被災者の生活を軽んじているわけではなく、その甚大な被害を目の前にして自然を畏怖する気持ち、自然の力の偉大さを感じたからだろう。同時に、津波が生み出したあり得ない光景や造形に対する戸惑いがあった。
「それを撮っておきたいな、と思って、シャッターを切ったのがこの作品。でも、褒めてくれた人はほとんどいませんでした。やっぱりね、社会の風潮には反するだろうし。『アサヒカメラ』以外にこんな作品を載せてくれる本はなかったわけですよ」
そして、被災地に通った思いを吐き出すように続けた。
「この写真の裏には生と死がある。理不尽で不条理な光景なんだよ。被災した人たちにとっては、平穏な日常生活のなかでこういうことが突然起こった。これを不条理といわず、なんという。3.11の以前と以降では考えたり、表現するベクトルがちょっと変わったと思っている」