山口百恵さんの写真の前で話す篠山さん(2012年)

「見たい」という目の欲望

 ところがである。その後も東京のど真ん中でヌード撮影を続けた篠山さんは2010年、不特定多数の人の目に触れる状態で撮影したとして警視庁に書類送検されてしまう。結局、公然わいせつの罪などで略式起訴され、罰金30万円を払った。

 この件について、後日、篠山さんはこう語った。

「もちろん、法に触れるということとか、それを破るとか、そういうことは目的にはやっていませんよ。ただ、ここまでだったら許してくれるだろうとか、見逃してよ、とか、どこかでそう思いながら、撮っていた」

 そして、ほほえみながら続けた。

写真家を長いことやっていれば、一度やそこらは家宅捜索に入られたりもしますよ。それはしょうがない。そういうときは謝る。罰金も払うの」

 そもそも、篠山さんが写真家になった動機は、撮る以上に「見たい」という欲望だという。

「『見たい』という目の欲望が体中にみなぎっていた。その欲望を満たすために写真を使う。ありとあらゆる写真の技法を使ってやる。芸術として撮ろうとか、思ってない」

 さらに、こうも言う。

「時代がさ、そういう写真を受け入れてくれたんだよ。本当に身勝手な、撮りたいっていう写真家の欲望を世の中が許してくれた。やれ、やれと、世間があおっていたもの。やっぱり、いい時代だったんですよ」

 そこで、声をひそめる。

「ところが今はみんな、『この写真はアブナイんじゃないですか』と言うんだから」

次のページ 3.11以降に表現のベクトルが変わった