身体が大きくなっても使用できる抱っこ補助具「ユニキャリ」を購入した友人が送ってくれた写真です。車いすユーザーが車いすを使わずにどうやって避難するかは切実な問題です。抱っこする保護者の両手が使えるように工夫されているのも画期的だと思います(写真/江利川ちひろ提供)

「インクルーシブ」「インクルージョン」という言葉を知っていますか? 障害や多様性を排除するのではなく、「共生していく」という意味です。自身も障害のある子どもを持ち、滞在先のハワイでインクルーシブ教育に出合った江利川ちひろさんが、インクルーシブ教育の大切さや日本での課題を伝えます。

【写真】健常児に見えるように年賀状写真を何十枚も撮り直したことも

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 2024年が始まりました。元旦から各地でさまざまなできごとがあり、この原稿を書いている今日(1月4日)もニュースに見入っています。被災された方に心よりお見舞い申し上げます。

長女は誰がキャッチする?

 災害が起きると、「我が家だったらどうなるのだろう」と考えます。寝たきりの長女(17歳)と足の不自由な長男(16歳)とどう避難すればいいのか、と。

 東日本大震災の時にもあんなに考えたはずなのに、正直なところ、いつの間にか頭から抜けてしまい、またどこかで災害が起きると思い出す……を繰り返しています。でもこの数日は地震だけでなく、飛行機からの脱出などとっさの判断が必要な事故についても改めて考えさせられました。

 過去を振り返ると、飛行機は私と子どもたちだけで搭乗することが多かったのに、首が座らない長女が緊急脱出スライドを滑った後に誰がどのようにキャッチするのか、地上に降りてもバギーが無い状態で長女を抱いて安全な場所まで走れるのかなど、事故を想定したシミュレーションをしたことはなく、どこかひとごとのように捉えていたことに気づきました。今回は障害のある子どもの災害対策について書いてみようと思います。

抱っこ補助具で備えるママ友

 2011年に東日本大震災が起きた時、双子の姉妹は4歳、息子は3歳になったばかりでした。当時はマンションの3階に住んでいたため、余震のたびに、寝たきりの長女と、まだ歩けなかった息子と、怖がりですぐに「ママ抱っこ~!」と言いながら泣いてしまう次女を抱え、避難が必要になったらどうすれば良いのかを考えていました。特にマンション内で火災が起きたとしたら、子ども3人を連れて非常階段を下りることができない可能性もあり、最悪はベッドのマットレスを投げて長女と息子を落とすしかないと本気で考えていました。

 それから数年経ち、私が運営しているNPO法人かるがもCPキッズ(脳性まひの子どもとパパママの会)のママたちと緊急時の避難について話していた時に、「ユニキャリ」という身体が不自由な子どもの抱っこをサポートするアイテムがあることを知りました。もともとは避難用ではなく日常生活で使用するために開発されたようですが、通常の抱っこひもよりかなり大きく、オプションのパーツがあればおんぶをすることもできます。車いすが使用できない場所で身体が不自由な子どもと移動するには抱えるしかありませんが、保護者の両手が使える状態になるのはとても助かります。その後、実際に購入して非常時に備えたママもいました。

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江利川ちひろ

江利川ちひろ

江利川ちひろ(えりかわ・ちひろ)/1975年生まれ。NPO法人かるがもCPキッズ(脳性まひの子どもとパパママの会)代表理事、ソーシャルワーカー。双子の姉妹と年子の弟の母。長女は重症心身障害児、長男は軽度肢体不自由児。2011年、長男を米国ハワイ州のプリスクールへ入園させたことがきっかけでインクルーシブ教育と家族支援の重要性を知り、大学でソーシャルワーク(社会福祉学)を学ぶ。

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特殊な大きさのおむつを避難所で入手できる?