避難所に非常用電源がない

 災害時に移動以外でもうひとつ懸念されるのが避難場所です。

 2013年6月に災害対策基本法が改正され、市町村は、一般の避難所に避難しづらい障害者や高齢者などのために、福祉避難所を指定するよう義務付けられましたが、福祉避難所の設備は自治体により、かなり差があります。我が家には災害対策として、長女のおむつの予備がたくさんありますが、もしも自宅から取り出すことができなかった場合、赤ちゃんサイズでも大人サイズでもない、特殊な大きさのおむつを避難所で入手するのは困難だと思われます。

また人工呼吸器などの医療機器には電源が必要ですが、市役所に問い合わせたところ、我が家のすぐ裏にある指定避難所の?学校には非常用電源がないとのことで、停電した場合は自宅から徒歩で20分ほどかかる公民館に行くことを勧められました。でもその公民館は海岸に近く、津波の恐れがある時には危険な場所です。そもそも、道がどうなっているのか分からない状況で人工呼吸器や酸素ボンベを持ったまま長女をバギーに乗せて20分先に避難することができるのかと考えると絶望的な気持ちになります。我が家では車からも充電ができるため、現状は、停電しても倒壊しない限りは自宅にいるのが一番安全かもしれないというとても頼りない結論になっています。

 災害や事故などの非常事態時には、周囲の人々の善意で成り立つ場面が多くあるのだと思います。特に障害者支援に関しては、赤ちゃんや高齢者とは少しニーズが異なり、緊急時に必要な助けや物資が届きにくい可能性もあります。そんな時には周囲の協力が不可欠です。私たちにできることは「ここにこんな人がいます」と伝えてコミュニケーションをとり、助けてもらった時にはしっかりと感謝の気持ちを伝えることだと思います。

 今回の能登半島での地震で被災された障害のある子どもやそのご家族が避難所を利用できなかったり、見過ごされたりしないだろうかと、気が気ではありません。内閣府によると、東日本大震災での障害者の死亡率は、被災住民全体の死亡率の約2倍に上ったそうです。障害者や家族だけではどうにもならないこともあります。地域や自治体も一緒になって犠牲を抑えるために取り組みが進められていったらなと思います。

 新しい年が「誰ひとり取り残さない」というSDG‘sの理念の元、持続可能な社会につながっていきますように。

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江利川ちひろ

江利川ちひろ

江利川ちひろ(えりかわ・ちひろ)/1975年生まれ。NPO法人かるがもCPキッズ(脳性まひの子どもとパパママの会)代表理事、ソーシャルワーカー。双子の姉妹と年子の弟の母。長女は重症心身障害児、長男は軽度肢体不自由児。2011年、長男を米国ハワイ州のプリスクールへ入園させたことがきっかけでインクルーシブ教育と家族支援の重要性を知り、大学でソーシャルワーク(社会福祉学)を学ぶ。

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