元プロキックボクサー。強くなるため、2年間タイでも修業した。東京都渋谷区の「CHOMPOO」で(撮影/写真映像部・高野楓菜)
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 俳優、一ノ瀬ワタル。間違いなく、2023年の顔だ。Netflixドラマ「サンクチュアリ-聖域-」で力士・猿桜(えんおう)を演じて大きな話題となった。元キックボクサーということもあり、強面の迫力のある演技が強烈な印象を残す。だが、素顔はピュアで優しくて、ウサギ好き。強い男性に憧れる。けれども、戦うことは好きではない。一ノ瀬の生き方は、本当の強さとは何かを考えさせられる。

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 レッドカーペットに黒いスーツ姿の一ノ瀬(いちのせ)ワタル(38)が登場すると、歓声と拍手がわき起こった。観客からのサインと撮影のリクエストに応えながら、ゆっくりと歩いていく。Netflix映画「REBEL MOON」の日本語吹き替えを担当した一ノ瀬は、この日の先行上映イベントで、俳優のソフィア・ブテラ、ぺ・ドゥナ、声優の神谷浩史らと共にステージに上がり、満面の笑みでフラッシュを浴びていた。

 2023年5月にNetflixのドラマ「サンクチュアリ-聖域-」が配信されてから、一ノ瀬の生活は一変した。「サンクチュアリ」は一ノ瀬が初めて主演を務めたドラマだ。北九州のヤンキーが相撲部屋に入門し、先輩力士とぶつかりながら、のし上がっていく姿を全8回で描く。Netflixで世界配信後、すぐに合計視聴時間を基準としたランキングで国内1位を記録、グローバル記録でも6位となった。BTSのメンバーのVのように、海外にも熱心な一ノ瀬ファンが生まれた。

 一ノ瀬はテレビのバラエティー番組に頻繁に呼ばれるようになり、ドラマ、映画ではより大きな役を任される。次々に仕事が入り、息をつく暇もない。

「ありがたいっすなー。『サンクチュアリ』を一緒にやった俳優とスタッフとは戦友みたいになって、別の現場で会うと、苦労が報われてよかったなって話になるんすよ」

 そもそも、無名の俳優だった彼がなぜ主役に選ばれたのか。監督の江口カンはオーディションに来た大柄な一ノ瀬を見て、すぐに候補外と判断した。当初、主人公は小柄な力士という設定だったからだ。ただ、いきなり帰すわけにもいかないので、いくつかの場面を演じてもらった。江口はこう振り返る。

「若い俳優さんはヤクザとか不良の役をやりたがるんですけど、オーディションをすると、みんな同じような芝居をするんですよ。どこかで見たような誰かの真似(まね)ばかりで辟易(へきえき)していました」

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