正面奥のウサギがたっちん。一ノ瀬が使うスマホに嫉妬してかじるほどなついている。現在は8羽を派閥ごとに時間交代で部屋に放し飼いにしている。健康診断も欠かさない(撮影/写真映像部・高野楓菜)

ウサギのために引っ越し アスレチック広場を作る

「私だったら絶対に言い返すと思うんですけど、彼はそのまま受け取ってしまうんです。私から見ると心配しなくてもいいことで落ち込んでいる時があって、大丈夫だと思うよ、と言うと、そっか、元気出た、と立ち直ってくれる。すごく繊細でピュアな人だと思います」

 怖くてエゴサーチができない一ノ瀬の代わりに、国内外の「サンクチュアリ」の反響を伝えてあげることもある。

 一ノ瀬のやさしさはペットのウサギにも惜しみなく注がれている。5年前にドラマ「獣になれない私たち」で共演したウサギ、たっちんを引き取った。それをきっかけに、現在は8羽のホーランドロップと暮らす。特にたっちんには、つらい時、苦しい時に助けられてきた。

「たっちんが死ぬことを考えただけで夜な夜な泣いてたんで、このままじゃ俺、後追いすると思ったんすよね。一緒に看取ってくれるウサギの家族がいれば俺の心も救われるから、たっちんに似た奥さんを迎えて、子どもを増やしたんです」

 前世では自分と彼らは特攻隊の仲間だったと妄想している。みんなで苦労したから、うちに来たからには最大限の幸せを与えてあげたい。自分よりウサギのほうが上だと思っているので、枕におしっこをされても「きょうもちゃんと出てよかったっすな」と気にならない。

「サンクチュアリ」以降、仕事が増えて収入は上がったが、まだまだ贅沢(ぜいたく)するのは怖くて、暮らしはほとんど変わっていない。ただ、ウサギの生活レベルだけが上がっている。えさとケージをグレードアップし、アスレチック広場を作るために広い家に引っ越した。

 仕事ではドラマ、映画の出演が続く。芝居のやり方は「サンクチュアリ」以前とは大きく変わった。以前は、俺の出るシーンは絶対におもしろくしてやる、という感覚だった。今は監督の言葉をよく聞き、自分のことより観る人がどう楽しむかを優先して考えるようになった。

「今がいちばん楽しいっすな。格闘技より芝居のほうが自分に合ってる。競い合うより、いい作品を作るという一つの目標にみんなで向かっていくほうが好きっすな」

 険しかった道のりは、一ノ瀬を本当の「強い男」に鍛え上げた。目の前に開けた新しい地平を、今がむしゃらに進んでいる。

敬語になると語尾に「すな」がつくのは方言ではなく、一ノ瀬独特の言葉。中学時代に始まったが理由はわからない。場の雰囲気を丸くする個性になっている(撮影/写真映像部・高野楓菜)

(文中敬称略)(文・仲宇佐ゆり)

※AERA 2024年1月1-8日合併号

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