『源氏供養』の雰囲気をさぐれば
所は琵琶湖畔の近江・石山寺、時節はある春の日の夜半から夜明けのこと。紫式部の霊が登場し、安居院(比叡山竹林院の里坊)の僧に、光源氏と自身の供養を懇請するとの流れから始まる。
以下、口語調を織り交ぜながら、『源氏供養』の世界に分け入ってみよう。
女(シテ)―法印の御僧に申し出たいことがございます。私は石山寺に籠もり『源氏物語』を書いた者ですが、その後、物語は有名になりましたが、光源氏への供養ができなかったため、罪を背負わされ往生もかなわぬ状況なのです。御僧の石山寺参詣のおりには、どうか私どもの霊も弔ってほしいのです。
僧(ワキ)―石山での供養は易き事ですが、そもそも貴女はどのような方なのですか。
女(シテ)―ともかく石山寺にご参詣して下さい。既にわが身は冥界にあって苦しんでおります。供養がなされた後には、自分も姿を顕わしたく思います。
―こんな問答ののちに、(中入)―
僧(ワキ)―お約束のように寝もせずに石山寺の鐘の声を聞きながら、光源氏の跡を弔うことといたしました。
女(シテ)―御僧の奇特な有難き振舞いに、どのような「御礼」を差し上げたらよいのでしょうか。(燈火の影にそうように、「紫の薄衣」を着した式部の霊が登場する。)
こんな流れで「ワキ」「シテ」の掛合がなされ、クライマックス・シーンとなる。そこでは「シテ」たる紫式部の霊が、苦界からの救済を願っていたことを伝えその法恩として、『源氏物語』の巻名を語りつつ、舞いをなすとの趣向で終わる。こんな流れとなる。