木田紀生は、早稲田の映画サークル出身の脚本家だ。その映画サークルの先輩(週刊読書人勤務の編集者)が、出張のたびに友人たちに「居酒屋のぞみ開店したよー」と、その土地、土地で買った酒と肴を新幹線のテーブルに広げて写メして送ってきていた。
「これドラマになるよね」
こう木田が横幕に持ちかけたというのだ。
協会の会合があった帰りに、女性の脚本家二人(黒沢久子、阿相クミコ)に木田と横幕は声をかけ酒を呑む。その席でこの企画の話をして女性二人を引き込むことに成功した。
そうしてつくったグループの名前が「天宮さろん」。この天宮さろんが売り込み、のってきたのが映像制作もてがけるKADOKAWAだったという筋書きだった。
確かに女性を脚本家にいれたことで、ドラマのみならず、各地方で進が調達するものに華やかさが加わった。たとえばスイーツ。宇都宮編では、御当地スイーツの「サクレレモン」のシャーベット。これをデザートにたべるだけではない。食後酒として登場する蜂蜜酒に、シャーベットの中で凍っているレモンのスライスを投入するのだ。このレモンスライス入り蜂蜜酒のグラスを、進はゆっくりと味わう。
この回の脚本は、阿相クミコが書いているが、横幕は、日本酒ばかりを選んでしまう自分ではとても思いつかないチョイスと感心したそうだ。
その土地土地で選ばれる酒と肴は、四人の脚本家がそれぞれの地を歩いて、実際に味わい、その由来を聞いて選んでいる。
横幕の仙台の回では、「定義(じょうぎ)揚げ」が出てくる。三角定規のような形の油揚げで肉厚、「あぶってネギと七味をかければ日本酒のあてとして最高」と駅ビルの店員に勧められる。
が、新幹線の中ではあぶれない。あきらめかかった進に店員が、地下の惣菜屋さんで、この定義揚げを使って煮物にしている店があるという話を聞く。
これは横幕が実際に体験したことで、その地下の惣菜屋「扇亭」で仕入れた煮物を味わう。
この定義揚げ、120度の温度で一度あげたあとに、もう一度190度で揚げなおす。これによってカリッとした食感がでる。仕入れたそんなウンチクを、脚本の中にも入れ込む。