地元の美味しいものを聞くには地元紙の人にかぎる。
山形への日帰りの講演出張が決まったとき、そのアイデアに心が躍った。
というのは、「#居酒屋新幹線」という低予算ドラマにはまっていたからだ。
〈俺の仕事は内部監査。日本中をまわる日帰り出張の日々。身も心も疲れるが、俺には密かな楽しみがあった。発車ベルがなるまで酒と肴を探してまわる。そして始まる。主(あるじ)は俺、客も俺一人の居酒屋新幹線!〉
毎回決まったこのオープニングで始まるこのドラマは、いわゆる状況制限型のドラマだ。
主人公の進(眞島秀和)は、日帰り出張で内部監査の仕事をすませると、新幹線の時間までその土地、その土地の上手い肴、上手い酒を仕入れて、東京までの新幹線の中で「居酒屋新幹線」を開く。
三人がけの普通席の通路側に陣取り、テーブルクロスを新幹線の小さなテーブルに敷き、持参のお猪口、箸を整え、手に入れた戦利品を並べる。そして注いだ酒を掲げて言う。
「お疲れさま、おれ」
居酒屋新幹線開店!
脚本家が企画をつくり、売り込む
シーズン1は新青森、八戸、盛岡、新花巻、仙台、福島、郡山、とそれぞれの駅で、進が街を歩き、人に会い、仕入れた酒と肴の話が展開する。
仙台編は津波で多くの人がなくなり、住宅地が一掃されてしまった名取市の沿岸部で始まる。その跡地にできた「千年希望の丘」で進が「10年か…」とつぶやく。
震災の記憶を掘り起こす回だなあ、としみじみとしながら見た。というのは、文藝春秋にいた時代に、妻の実家が仙台であったことがきっかけで、『河北新報のいちばん長い日』というノンフィクションを震災が起こった年に出したからだった。
この本は一年後にテレビ東京でドラマ化された。そんなことを思い出しながら最後まで見るとタイトルロールに「脚本・横幕智裕」とあることに気がついた。
横幕さんは、テレビ東京のドラマ化の際に、実際に震災直後の気仙沼まで足を運び、シナリオを書いてくれた脚本家その人だ。
懐かしくなって電話をすることで、「#居酒屋新幹線」が四人の脚本家の発案で実現したことがわかった。
「日本シナリオ作家協会は、脚本家が原作を脚色するだけではなくて、オリジナルの脚本を書くことを奨励する取り組みを始めていました。このドラマは協会で仲のよかった木田紀生が、自分の体験からこの企画を閃いたんです」