今年9月にNHKを退職し、サンミュージックへ移籍したアナウンサーの武内陶子さん(58)。「おはよう日本」のキャスターや、紅白歌合戦の総合司会を務めるなど、同局の看板アナだった武内さんは、移籍後、早くも民放のバラエティーなどで活躍している。NHKを退職することを決めた理由や、その影響力の大きさを肌で感じたというNHK時代のエピソード、同期で大学の後輩の有働由美子さん(54)との関係性などを聞いた。
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「NHKというアイデンティティーが崩壊し始めているんです」
今年9月にNHKを早期退職し、芸能界での仕事を始めた武内陶子さんに近況を尋ねると、そう言って笑った。
「取材などで『NHKを辞めてどうですか』とか『NHK的にこんなことしてみてください』って、皆さんNHKの“名残”を探されるんです(笑)。でも、内部にいた人間には、その『NHK的』がわからない。初めて外国に行った人みたいな感じです」
武内さんがNHKに入局したのは1991年。以来、33年、NHKで過ごしてきた。「NHKに育ててもらって感謝しかない」と語る武内さんだが、転職して変化はあったのだろうか。
「自由というか、身軽にはなったなと思います。離れてみて初めてNHKの看板というものが無意識のうちにもプレッシャーになっていて、その看板に耐えられるように頑張ってたんだなって思いましたね」
日本全国に50以上の放送局を持つNHK。その影響力の大きさを武内さんも肌で感じてきたという。
97年4月から担当していた朝の報道番組「おはよう日本」に出演していたときのことだ。「自分が発する言葉が、思いもかけないようなところで人を傷つけていたことに気がついたんです」と当時を振り返る。番組の最後のあいさつで武内さんが言った「今日も一日お元気で!」という言葉にクレームが入ったのだという。
「衝撃を受けました。病院で闘病中の方が『明日のわが身がどうなるかわからない状況なのに、武内さんに明るい声で言われるとすごくつらくなる』とご意見をくださったんです。自分は本心から言っているけれど、それが思ってもみない形で伝わってしまう……とはいっても心から思っていないことは言いたくない……。すごく悩みましたね」