クッキー缶や包装紙に描かれるのは、修道女のイラスト。パティシエの寺井きよみさんは、フランス各地のお菓子の由来をたどるうち、その誕生の背景と深くかかわっていた中世の修道院にひかれたと話す
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 クッキー缶?お菓子缶?それともスイーツ缶……?言い方はいろいろあるが、つまりは主に焼き菓子をつめたかわいい缶のこと。2023年、ブームになったものの一つだ。テレビ番組や雑誌が特集したり。京都府舞鶴市と第8管区海上保安本部(同市)が「海の110番」と言われる118番をPRする目的で「まいづる海保クッキー缶」を共同企画し発売した、なんていうニュースもあった。ホリデーシーズンを前に、クッキー缶を贈り物に、と考えている人も少なくないだろう。

 誰もが一度は見たことがあるメジャー缶から限定缶まで、多種多様なクッキー缶は枚挙にいとまがないが、オンラインではカートオープン即完売、リアルでも出店すればすぐに売り切れてしまう知る人ぞ知るクッキー缶がある。

 北九州市、門司港の海岸沿いにたたずむ小さな菓子店「喫茶と焼き菓子 bion」のクッキー缶だ。国産小麦や全粒粉、発酵バターなど、おいしくて身体にやさしい材料を使い、有機農法などに取り組む農家のハーブや果物など、旬の素材を取り入れたクッキーが詰め込まれ、素朴なフォルムもかわいい。

 そのbionのパティシエが、レシピ集「門司港『bion』の焼き菓子と季節のケーキ」を発売した。このレシピ集があれば、人気のクッキー缶を再現できる(!)という。幼いころからお菓子作りが好きだったという寺井きよみさんがその人だ。どんな人物なのだろう。彼女がレシピ集に添えたエッセイを紹介したい。

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 小さいときから自然が身近にあり、自家菜園で採れた野菜や庭の樹に実った果物など、季節の素材が食卓に並んでいました。毎年春になると母が大事に育てた苺でジャムを作ってくれたように、お菓子作りをはじめた当初は家で収穫したものを使っていました。大豆の粉を混ぜたきなこぼうろ、梅や柚子で作ったシロップ、ジャム……。

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新しいお菓子との出合いにときめき