「自分が成功することができなかったため、自分の夢や理想を子どもに託し、『教育』という名の下、子どもを通して自己実現をしようとしてしまいます。しかし、それが子どもには過度の期待と強制になり、じわじわと子どもを追い詰めていきます」(武田さん)
10代後半の子どもたちのシェルターを運営する社会福祉法人「カリヨン子どもセンター」(東京都)事務局長の石井花梨(かりん)さんは、教育虐待をする親の共通点として、「経済的にも安定した家庭で起きている」と話す。
「本来、親が子どもの能力を信じ子どもを後押しでき、加えて財力によって子どもが伸びるよう力を貸せるのは幸せなことです。しかし、それが過干渉、過管理になってしまうと、後押しだったはずのサポートも一方的な押し付けになり、親子関係もこじれます。いい高校、いい大学、いい会社に就職させることを目標に定め、そこに達成させるのが『いいお父さん』『いいお母さん』という自身への評価につながると錯覚し、親だけエキサイトしていっていると感じます」
同センターが運営するシェルターには、年に数人、親からの教育虐待を逃れ避難してくる子どもたちがいる。石井さんによれば、子どもたちはシェルターに逃げてきた時は傷つき、不安を抱えているという。
「子どもは、親が望むのであればと、自分の気持ちは置き去りにして血を吐くような思いで勉強をします。しかし、そうした状況が続くと、誰にも相談をできないまま、プツンと心の糸が切れてしまいます」(石井さん)
教育虐待が子どもの心に与える傷について、先の武田さんはこう話す。
「叩かれたり殴られたりしていないのに、真綿で首を絞められるように、心身へのストレスによる継続的なPTSD(心的外傷後ストレス障害)状態になることもあります。子どものころからディスエンパワー(自分の意思で何かに取り組むことを諦めるように仕向けられる)されているため、自分ならできるという自己効力感を持てず、常に他人の評価を気にしてしまうなど、成長してからさまざまな症状が出ることもあります」
防ぐにはどうすればいいのか。
NPO法人「女性・人権支援センター ステップ」(横浜市)理事長の栗原加代美さんは、こう考える。
「親が変わる必要があります。教育虐待の根底にあるのは怒りです。例えば子どもが思うような点数を取ってこない、それに対する怒りです。虐待をする親は一様に『自分が正しい』と思い込み、『虐待』をしている意識がありません」