同法人は、アメリカの心理学「選択理論」を用い、加害者の更生に力を入れている。加害者20人ほどが一つのグループになり、怒りの感情を抑える対処法を学び、「自分の思い通りになってほしい」という理想像を押しつけず相手を尊重する気持ちを養っていく。例えば、怒りがわいた時「相手は精一杯の選択をしている」と考える。すると、試験で20点しか取らなかったとしても「子どもは精一杯の選択をした」と思えば怒りはわいてこない。週に1度、全52回続けると、8割はDV思考や怒りをコントロールできるようになるという。
「加害者が変わることが被害者を救うことになります。加害者の更生と被害者の保護は、両輪でなければいけません」(栗原さん)
社会全体に広がる価値観を変えることが必要
前出の石井さんは、親に呼びかける。
「子どもは親の所有物ではなく、家族として一緒に生活していますが別人格です。子どもが望むサポートと親にできる行き過ぎないサポートを、親子の対等な対話のなかで模索してほしい」
そして、今苦しんでいる子どもには「誰かに相談をしてほしい」と語る。
「友だちのお父さんやお母さんでもいいので、身近な大人に相談をしてほしい。LINEでの相談を行っている団体もたくさんあります。社会資源としてまだ未成熟ですが、家を離れシェルターに入るという選択肢があるということも覚えておいてください」
武田さんは「日本社会全体に広がる価値観を変える必要がある」と説く。
「教育虐待は、日本社会の問題でもあります。社会全体でヒエラルキーをつくりだし、競争に勝ち名声やお金を持つことが幸せという価値観が日本の教育全体に広がっています」
これを武田さんは「エデュケーショナル・マルトリートメント」と呼ぶ。エデュケーショナルは「教育的な」、マルトリートメントは「悪い扱い」の意味で、親も含め学校など社会全体で子どもに不適切な教育をしてしまうことを指し、教育虐待もこれに含まれる。
「私が強調したいのは、大人たちに自分たちの信じている価値観を疑い、考えてほしいということ。競争に勝ち、お金と高い地位を得ることが本当にすごいことでしょうか」
ただ、価値観は簡単には変わらない。そのためにはこれまでとは違う本を読み、多彩な人と出会って自分を振り返ったり、子どもにも多様な価値観を持つ人と出会う機会をつくったりしてはどうかと、武田さんは提案する。
「親が楽しそうに学びながら生きているのを見て、子どもが『学ぶって楽しそう』と思えたら、それは素晴らしいことです」
(編集部・野村昌二)
※AERA 2023年12月4日号より抜粋