ウォーキングには体にいいさまざまなエビデンスがある。脳の活性化や高血圧対策にも有効だ。運動の秋、健康増進のために「歩くこと」から始めてみては。AERA 2023年11月13日号より。
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「大股」歩きは、脳を活性化させる歩き方でもあるという。
国立環境研究所環境疫学研究室主任研究員の谷口優さんは言う。
「歩幅の狭い人は、広い人に比べて認知機能が3.39倍低下しやすいんです」
理想の歩幅は65cm以上
谷口さんは東京都健康長寿医療センター在籍時、1千人以上の歩行を測定した。歩幅を「広い」「普通」「狭い」に分け、最長4年間、認知機能の低下を調査。最終的に追跡できた666人のうち、歩幅の狭い群で認知機能の低下が最も多く見られた。性別、身長、高脂血症の既往症、血液検査の数値などの要素を調整し、歩幅が広い群の認知機能の低下を1とした場合、狭い群のリスク比は3.39倍だった。
谷口さんらは、6509人を対象に、最長12年間、歩幅の加齢変化と認知症の関係について追跡調査をした。
「歩幅が狭い群では、広い群に比べ、認知症の発症リスクが3.34倍高いとの結果が出ました」
歩幅は特定の脳の部位の大きさや血流状態と関係する。歩幅を広げれば脳と足の間の神経伝達が刺激され、脳の活性化が期待できるという。
「研究結果からいえる理想的な歩幅は65センチ以上です。いまの歩幅から5センチ広げることを目指してください」
さらに、ウォーキングは認知症対策にも役立つという。
「アルツクリニック東京」院長の新井平伊医師は「ながら作業」の重要性を説く。新井医師は1999年に日本初の「若年性アルツハイマー病専門外来」を順天堂大学附属順天堂医院で開き、現在は認知症発症・進行の抑制に取り組む。
「歩きながら歌ったり、計算したりする。一度に二つ以上のことをするデュアルタスク、『ながら作業』は、認知機能の低下を抑制します」
「ながら作業」により、体を動かしながら脳の機能のさまざまな部分を刺激できる。
国立長寿医療研究センターが開発した「コグニサイズ」は、軽い運動をしながら計算やしりとりをするプログラムで、MCI(軽度認知障害)の認知機能低下抑制が示されている。MCIとは認知症の前段階で、年間10~30%が認知症へ移行するとされる。