撮影:公文健太郎

かかしの気持ち

 しかし、人間がよりよい暮らしを求めて経済活動が拡大した結果、自然にひずみが生じるようになった。その最たるものが地球温暖化や異常気象だろう。その影響をダイレクトに受けるのが漁業者や農家だ。

 最近、どこの漁師に話を聞いても、魚が捕れなくなったという。

「無限に広がっているように思える海の環境が劇的に変わりつつある。なので、養殖が大事になっている」

 一方、養殖には「遠くの海でとれた小魚を食べさせて、魚を育てることが果たして、持続可能な漁業なのか?」「餌の食べ残しが海洋環境を汚染している」といった批判もある。

 農業についても、規格外や見た目の悪い野菜や果物が大量に廃棄されている、という指摘が昔からされてきた。

 そんな光景をたびたびに目にしてきた公文さんは、「かかしの気持ち」という言葉を口にした。

「かかしって、畑に立っているだけで、何もせず、ただじっと見ている感じがするじゃないですか。そんなスタンスがいいんじゃないかと思って、『耕す人』をずっと撮り続けてきた。そのなかで、地球の環境と農業や漁業がどう関係しているのか、だんだん見えてきた」

撮影:公文健太郎

師匠から学んだこと

 人間は安定して食料を得るために田畑をつくり、水を利用してきた。

「それが人間らしさというか、知恵を使って自然をコントロールしてきた。それをフラットな視線で見ていきたい。そんな姿勢を師匠から学びました」

 公文さんの師匠である本橋成一さんの代表作にチェルノブイリ原発事故をテーマにした「ナージャの村」がある。本橋さんは事故を起こした発電所や、放射能汚染によって病にかかり苦しむ子どもたちを写すのではなく、汚染地域に暮らす人々の日常を追った。

「放射能も、地球温暖化も、目には見えない怖さがある。環境問題を写真で告発することはいくらでもできますが、それを撮らなくては、という気持ちはあまりない。ただ、撮影した写真を見返すと、そういう問題が写っている。だから、それを見てほしい」

 公文さんが引かれる風景は日本中どこにでもあるという。そこで暮らす人々にとっては当たり前の風景だが、その中に見つけた独自の切り口が光る作品だ。

アサヒカメラ・米倉昭仁)

【MEMO】公文健太郎「地の肖像
コミュニケーションギャラリーふげん社(東京・目黒) 11月2日~11月26日