
「リンゴ農家の剪定技術というのはすごいんです。一見何げなく枝を切り取っているように見えるんですが、真っ赤な実をならすために光を導いたり、風を流すように、すごく考えられている。つまり、おいしいリンゴをつくるために自然をきめ細かくコントロールしている。なので、農業をテーマにした写真展を開くときは、毎回、違ったリンゴの木の写真を組み入れています」
公文さんはリンゴのほか、米やミカン、長イモ、トマトなど、自然の恵みを享受する人間の営みをフォトジェニックに、ときにはユーモラスにとらえてきた。
自然と人工のはざま
公文さんの作品にはさらに人間の手が加えられた風景もある。
それを象徴するのが、海に設けられたいけすだという。写真には直径30メートルほどのいけすが並んでいる。
長崎県の沿岸で行われているブリの養殖だそうで、餌の小魚を勢いよく食べるブリがいけすの中央で水しぶきを上げている。
「餌のおこぼれにあずかろうと、いけすの周囲に大きな魚がやってくるんですよ。それがすごく不思議な光景というか、人間と自然の接点を見る思いがしました」

別の写真には巨大な金属製のコンテナが写り、周囲に白いもやが漂っている。コンテナに目を凝らすと、すき間にたくさんの魚が詰まっているのが見える。かつおぶしづくりが盛んな鹿児島県・山川港で写した冷凍倉庫からカツオを出すシーンだという。
「生のカツオは宮城県の気仙沼港とかに水揚げされるんですが、かつおぶしに加工されるものは大抵冷凍で入ってきます。それが、霧のような冷気が漂う光景が生んでいる。いわば自然と人工が混ざりあった風景です」
農業でもハウスを利用したり、畑をビニールシートで覆って、野菜や果物の成育環境を整えるのはよく目にする風景だ。作品には、黒いネットに覆われた沖縄県・西表島のパイナップル畑の写真もある。
「パイナップルはもともと暑い場所の作物なのに、日焼けして商品価値が下がらないように、黒いネットがかけられるんです。なんか矛盾しているようなところが面白いな、と思いました」