10年ほど前、公文健太郎さんは風景写真を撮ろうと、日本中を旅した。
すると、「美しい風景だな、と思って、足が止まったところのほとんどが農業の風景だった。日本の風景は農業がつくっていることに気がついた」。
以来ずっと、「耕す人」をメーンテーマに撮り続けてきた。近年は農業だけでなく、漁業の現場にも足を運ぶようになった。
そんな公文さんが最近、キーワードにしているのが「人と自然の接点」だ。
「時間がかかりましたけれど、ぼくは日本の農風景を撮りながら、人と自然の接点をずっと見てきたことに気がついた。それは『耕す人』だけじゃなくて、半島や川を撮るシリーズにもつながっているんだな、ということを感じました」
そう認識したのは2年前。高知県の山間部でショウガの収穫作業を撮影し、それが終わった後、作品について取材を受けたときのことだった。
「山あいに広がるショウガ畑に夕日が当たって、すごく奇麗でした。インタビューの中で、『人と自然の接点』という言葉がすっと出てきた。それがまさにここだなと、しっくりきたんです」
そのインタビュービデオは山の上につくられたショウガ畑を空から映し出す。畑の周囲には立派な石垣が築かれている。それは人が長い時間をかけてつくった風景だった。
日本のリンゴは世界一
人の営みがつくる風景として、公文さんは「リンゴの木」に特別な思いがあるという。10年前に長野県飯綱町で撮影したリンゴ畑の写真を見せてくれた。
「リンゴの木って、形が非常に面白くて。何十年もかけて人の手によってつくられた、まさに盆栽なんです。その姿は美しいというか、神々しい。そんな風景を撮り始めたのが『耕す人』のスタートでした」
日本のリンゴは世界一おいしいといわれる。それは農家が非常に手間をかけて栽培しているからで、その丁寧さが木の姿に表れているという。
春、リンゴの花が咲くと、農家は一定数を残して摘み取る「摘花」作業を行う。さらに実がなると、同様に「摘果」をする。実が育ち、赤くなり始めたら、まんべんなく色づくように一つひとつリンゴの向きを変えていく「玉まわし」をする。収穫後は雪の中、木の枝を剪定(せんてい)し、春を迎える。