イラスト:サヲリブラウン

 ちゃんとしようとしてちゃんとしたテーブルを備えたら、それだけで部屋に「暮らし」が立ち上ってくることに驚きました。良くも悪くも生活感が出るのです。ついこの間までと同じ一人暮らしなのに!

 なんと、これがなかなか居心地悪い。良くも悪くもの「悪い」ほうが、私の心に影を落とします。こんな年までのらりくらりと生きてきたら、ちゃんと暮らすことに、照れと警戒が生まれてしまったのでしょう。昔は平気でしたし、それを望んでいたのになあ!

 以前のコーヒーテーブルにあった「ここはあくまで暫定的」なムードが、このテーブルには皆無です。至極便利なのに、「暮らし」に根が生えそうで怖い。自分でもびっくり。私は自分の暮らしにすらコミットしたくないのか。

 さっさと慣れて「便利だなあ」で心が埋め尽くされてほしいと、切に願っています。

AERA 2023年10月30日号

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ジェーン・スー

ジェーン・スー

(コラムニスト・ラジオパーソナリティ) 1973年東京生まれの日本人。 2021年に『生きるとか死ぬとか父親とか』が、テレビ東京系列で連続ドラマ化され話題に(主演:吉田羊・國村隼/脚本:井土紀州)。 2023年8月現在、毎日新聞やAERA、婦人公論などで数多くの連載を持つ。

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