過去に『男のダンディズム』(KKロングセラーズ)という著作を出版し、自らもダンディズムを追い求めている俳優の奥田瑛二さん。俳人としての顔も持つ奥田さんは、夏井いつきさんとの対談本『よもだ俳人子規の艶』(朝日新書)を刊行。そこでは正岡子規のダンディズムについて語った。本書から一部を抜粋、再編集し、紹介する。
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ダンディズムにマニュアルはない。
それにもかかわらず、
「これが、男のダンディズムだ」
ひと昔前は、そんな方法論がまことしやかに世間にあった。テレビドラマや雑誌で扱われ、小生も臆面もなくその風潮に加担した。
時には抗いながら、自分なりのダンディズムを語ったりもした。
「ダンディズムというのは、その男がこれまで生きてきた結果論である」、と。
小難しい言い方だが、「ダンディズムにマニュアルはない」と、当時もそれなりに言いたかったのだろう。
あれから数十年が過ぎた今、正岡子規と対峙した。そして思った。
子規が、これほどダンディな男だったとは――。
死生観さえ見えてくる艶俳句では、己の生と性をとことん客観視し、不治の病を克明に詠む辞世の句では、絶望さえも短調にはしない。いったい彼の眼はどれほどまで世の中を観る能力に長けていたことだろう。想像するだけで、ひとりのダンディな男がありありと顕れる。