奥田瑛二さん
奥田瑛二さん (c) Daisuke Miura (go relax E more)

 過去に『男のダンディズム』(KKロングセラーズ)という著作を出版し、自らもダンディズムを追い求めている俳優の奥田瑛二さん。俳人としての顔も持つ奥田さんは、夏井いつきさんとの対談本『よもだ俳人子規の艶』(朝日新書)を刊行。そこでは正岡子規のダンディズムについて語った。本書から一部を抜粋、再編集し、紹介する。

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*  *  *

 ダンディズムにマニュアルはない。

 それにもかかわらず、

「これが、男のダンディズムだ」

 ひと昔前は、そんな方法論がまことしやかに世間にあった。テレビドラマや雑誌で扱われ、小生も臆面もなくその風潮に加担した。

 時には抗いながら、自分なりのダンディズムを語ったりもした。

「ダンディズムというのは、その男がこれまで生きてきた結果論である」、と。

 小難しい言い方だが、「ダンディズムにマニュアルはない」と、当時もそれなりに言いたかったのだろう。

 あれから数十年が過ぎた今、正岡子規と対峙した。そして思った。

 子規が、これほどダンディな男だったとは――。

 死生観さえ見えてくる艶俳句では、己の生と性をとことん客観視し、不治の病を克明に詠む辞世の句では、絶望さえも短調にはしない。いったい彼の眼はどれほどまで世の中を観る能力に長けていたことだろう。想像するだけで、ひとりのダンディな男がありありと顕れる。

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夏井いつき

夏井いつき

夏井いつき(なつい・いつき) 1957年愛媛県生まれ。俳人。俳句集団「いつき組」組長。8年間の中学校国語教師を経て俳人へ転身。94年「第8回俳壇賞」、2000年「第5回中新田俳句大賞」受賞。創作活動に加え、「句会ライブ」や講演など、俳句の種まき運動の傍ら、MBS「プレバト!!」など各メディアで幅広く活躍。15年より初代俳都松山大使。主な著書に、『句集 伊月集 鶴』『夏井いつきのおウチde俳句』(共に朝日出版社)、『夏井いつきの世界一わかりやすい俳句の授業』(PHP研究所)、『子規365日』(朝日文庫)、『瓢簞から人生』(小学館)など。

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奥田瑛二

奥田瑛二

奥田瑛二(おくだ・えいじ) 1950年愛知県生まれ。俳優・映画監督。79年映画『もっとしなやかにもっとしたたかに』で初主演。86年『海と毒薬』で毎日映画コンクール男優主演賞、89年『千利休 本覺坊遺文』で日本アカデミー主演男優賞を受賞。94年『棒の哀しみ』ではキネマ旬報、ブルーリボン賞など8つの主演男優賞を受賞する。2001年監督デビュー。近年の出演作に、主演映画『洗骨』(19年/照屋年之監督)、連続テレビ小説「らんまん」(23年度前期/ NHK)などがある。主な著書に、『男のダンディズム』(KKロングセラーズ)、『私の死生観』(共著/角川oneテーマ21)など。

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子規が二十四歳の時に詠んだ句