台湾有事が拡大し日本国内の米軍基地が攻撃された場合、アメリカはどのような動きをするのか。日本のために中国との全面戦争に踏み切るのか、中国をなだめ時間稼ぎをするのか、はたまた日本を切り捨てるのか……。「台湾有事の取り扱い方を間違えると、アメリカは19世紀から営々として築いてきた西太平洋の勢力圏を失うリスクがある」と哲学者の内田樹氏は語る。同氏と政治学者・白井聡氏の新著『新しい戦前 この国の“いま”を読み解く』(朝日新書)では、各国の主導権争いと台湾有事におけるアメリカの対応を議論した。同著から一部を抜粋、再編集し、紹介する。
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没落する国家と共倒れしないために
白井聡(以下、白井):ウクライナ戦争の背景にはドイツ外交の失敗もありますね。ウクライナではもともと東部のドネツク州とルハンスク州で親ロシア勢力による反政府・独立運動があり、そこにロシアが介入して「ドンバス紛争」という武力衝突に発展します。それで停戦の「ミンスク合意」が結ばれました。最初の合意は2014年9月の「ミンスク1」ですが、これがすぐに破られて2015年2月に「ミンスク2」が結び直されました。ミンスク合意の仲介の中心はドイツです。しかしこの停戦合意も破られて内戦が続き、ついに2022年2月、ロシアが全面侵攻するに至りました。