内田:今のアメリカには対中国で事を構えるだけの気力体力はないと思います。9.11直後には国民の好戦気分が亢進して、戦時大統領の支持率が90%という異常事態になりましたけれども、バイデンが90%の国民世論の支持を得て台湾を取り戻すために中国との全面戦争に突っ込んでいくという展開はまずあり得ない。たぶんアメリカの一般市民の相当数は台湾がどこにあるのかもよく知らないんじゃないかな。だから、仮に中国の軍事侵攻があっても、「台湾を救え」という国民世論が湧きたつということはないと思います。

白井:先制攻撃でも食らわない限り無理ですよね。

内田:アメリカは自国市民が殺された場合には火が点きますけれども、台湾が先制攻撃されても、米国市民の死傷者が出なければ、感情的な反応はしないと思います。「台湾有事にコミットすることはアメリカの国益にプラスかマイナスか」という議論をだらだら続けると思います。

 もちろん台湾はアメリカに見捨てられるリスクも勘定に入れて、抵抗のための戦略を構想していると思います。武力侵攻にも全力で耐えようとするでしょう。最近会った台湾の人も「徹底抗戦します」と言っていました。台湾の人口は2300万人、ここまで自力で民主主義を獲得してきた民主主義国家ですから、仮に主要な軍事拠点を破壊できても、アンダーグラウンドのレジスタンスは続くでしょう。全土を完全に制圧するためには、その後長期にわたって数十万の兵士と行政官を台湾に貼り付けておかなければならない。プーチンもウクライナなんか3日もあれば制圧できて、すぐに親露傀儡政権ができると思っていたはずですが、思惑通りには行かなかった。中国が台湾を相手にする場合だと、ロシアがウクライナを相手にしたように、経済活動ができなくなるところまでめちゃくちゃに社会的インフラを破壊するわけにはゆかない。台湾の半導体事業を無傷で手に入れることが戦略目標の一つなわけですから。だとすると、電撃的な軍事侵攻で台湾が戦意を喪失して、ただちに親中派の傀儡政権ができて、国際社会が台湾支援をしようとしても、支援する先がないというシナリオ以外には旨味がない。僕はそんなにうまい具合にことは運ばないだろうと思います。

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韓国との関係をどうするか