前近代社会は一夫多妻的だったので、男性が複数の女性と性的で親密な関係を持つことは当たり前でした。また、塩野七生さんの『海の都の物語──ヴェネツィア共和国の一千年』(中央公論新社/1980年)に描かれているように、16~17世紀のヴェネツィアでは、女性が「不倫」するのは当たり前だったのです。夫が航海で外に出ている間に、妻が男遊びをするのはごく普通のことでした。

 それが近代的結婚になって、「結婚は愛情に基づく」となったとたんに、愛情に基づかない結婚をしている人が愛情を求めて不倫をするというかたちで、人々が興味を持つテーマとして、小説に取り上げられるわけです。

 そして、近代的結婚が崩れ始めている時代、つまり現代がそうですが、この現代的結婚においても不倫は話題になります。ただしそれは、結婚外の性行動だって構わないじゃないかという確信犯的なかたちで、婚外関係を持つ人が増えてくるわけです。

 要するに、近代的結婚が立ち上がるときと、近代的結婚が崩れ始めるときに、如実に時代に表面化してくるのが不倫である、といえるでしょう。

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山田昌弘

山田昌弘

山田昌弘(やまだ・まさひろ) 1957年、東京生まれ。1981年、東京大学文学部卒。1986年、東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。現在、中央大学文学部教授。専門は家族社会学。学卒後も両親宅に同居し独身生活を続ける若者を「パラサイト・シングル」と呼び、「格差社会」という言葉を世に浸透させたことでも知られる。「婚活」という言葉を世に出し、婚活ブームの火付け役ともなった。主な著書に、『近代家族のゆくえ』『家族のリストラクチュアリング』(ともに新曜社)、『パラサイト・シングルの時代』『希望格差社会』(ともに筑摩書房)、『新平等社会』『ここがおかしい日本の社会保障』(ともに文藝春秋)、『迷走する家族』(有斐閣)、『家族ペット』(文春文庫)、『少子社会日本』(岩波書店)、『「家族」難民』『底辺への競争』(朝日新聞出版)などがある。

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