前近代社会は一夫多妻的だったので、男性が複数の女性と性的で親密な関係を持つことは当たり前でした。また、塩野七生さんの『海の都の物語──ヴェネツィア共和国の一千年』(中央公論新社/1980年)に描かれているように、16~17世紀のヴェネツィアでは、女性が「不倫」するのは当たり前だったのです。夫が航海で外に出ている間に、妻が男遊びをするのはごく普通のことでした。
それが近代的結婚になって、「結婚は愛情に基づく」となったとたんに、愛情に基づかない結婚をしている人が愛情を求めて不倫をするというかたちで、人々が興味を持つテーマとして、小説に取り上げられるわけです。
そして、近代的結婚が崩れ始めている時代、つまり現代がそうですが、この現代的結婚においても不倫は話題になります。ただしそれは、結婚外の性行動だって構わないじゃないかという確信犯的なかたちで、婚外関係を持つ人が増えてくるわけです。
要するに、近代的結婚が立ち上がるときと、近代的結婚が崩れ始めるときに、如実に時代に表面化してくるのが不倫である、といえるでしょう。