イチローは2年夏と3年春に甲子園に出た。でも、勝てなかった。2年夏は3番レフトで1回に中前ヒットを打ったけど、その後は3打数無安打。チームも天理(奈良)に1−6の完敗やった。3番ピッチャーで出場した3年春は、松商学園に2−3で敗れた。イチローは完投して被安打10。打っては5打数無安打に終わった。だから、イチローは甲子園に、いい思い出がないんじゃないかな。

 最後の夏は、愛知大会の決勝で東邦に負けてしまった。イチローを後ろで投げさせて甲子園を決める作戦だったが、先発が打ち込まれてしまった。

 イチローは泣かんかったね。1人だけユニホームを着られなかった3年生部員がいるスタンドに走り寄り、金網越しに「ゴメンな」と声をかけていた。

 テレビ局のインタビューでは「ぼくは悲しくないですが、そのまま言っていいですか。それとも、ここは悲しみにうちひしがれているようなコメントの方がいいですか」と前置きしたと聞いた。

 プロという目標があったからなんだろうね。イチローは高校野球が終わっても、何も変わらなかった。退寮して自宅通いになった翌日から、練習を再開した。目標に向かって自分を磨き続けていた。

 イチローを育てたなんて、おこがましいね。おれは何も教えとらん。むしろ、あいつと一緒に野球をやったのが、おれの誇りだわな。(取材・構成/安藤嘉浩)

〈『高校野球 名将の流儀』(朝日新書)では、高校時代の村上宗隆や山田哲人といった現役選手のほか、松井秀喜や松坂大輔など、球界に名を刻んだレジェンドたちへの教えも多数紹介。本書は朝日新聞の連載「高校野球メソッド」「名将メソッド」をもとに構成しています〉

お詫びと訂正:8月20日10時に配信した段階で、イチロー選手ではなく松商学園の上田佳範選手の写真が入っておりましたので正しい写真に差し替えました。AERA dot.編集部の担当者が写真を取り違えたのが原因です。読者の皆様および、筆者の方に大変ご迷惑をおかけしました。お詫びいたします。

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