「セットフレーズの知識」と「予測力」
インターネットの検索エンジンを思い浮かべてみてください。そこに「ありがとう」と打ち込んでみます。
「ございます」が続く言葉としてすぐさま予測提示されるのではないでしょうか。これは打ち込まれた文字に対して、完成させる可能性が高い後に続く語の候補を表示してくれているものです。よく使われる言葉のデータをもとに、ソフトウェアは完成される可能性が高いフレーズまでも表示してくれます。「よろしく」と打ち込むと「お願い」、そして「いたします。」と続けてサジェストする、というように。
実は、会話をしているとき、私たちの脳内でも同じ作業が成されています。音や文字を耳や目にすると、あなたの脳は、これまで接してきた膨大な言葉のデータを元に、自動的に後ろに続く言葉を予測しながら、意味のあるまとまりに分節化していきます。この脳機能のおかげで、単なる音や文字の集まりが単語の集まりになり、ひとまとまりのフレーズになり、ようやく文の意味を理解できるようになるのです。
本書では、このようなひとまとまりになって意味をもつフレーズのなかでも特に、個々の単語の意味を汲むだけでは正しい意味を導けないまとまりを、セットフレーズと呼びます。
例えば、“Better late...” で文章が始まれば、ネイティブスピーカーの脳内では後に“than never” が続くという予測がすぐさま浮かびます。“Better late than never” とは、「遅くなっても行わないよりはましだ」という意味で、待ち合わせに相手が遅れたときや、誕生日から日が経ってからバースデーカードを送るときなどに使うセットフレーズです。
何か目標を達成できなかったと話したときに、友人が“If at first...” と返したならば、“you don’t succeed, try and try again!” が後に続くとすぐに分かります。これは、「初めての試みで成功しなくとも、何度も挑戦すれば上手くいくよ」という意味で、最初の失敗に落ち込まず挑戦し続けることを応援するセットフレーズです。