若い頃から走るのが好きで、定時に帰宅できたときは近くの川辺をよくジョギングしていたが、これからは通勤もないので、体力維持のために毎日ジョギングをして、できればマラソン大会とかにも出てみたいという60代半ばで退職したばかりの人。

 器用なほうで何かを自分の手で作るのが好きなのだけど、現役の頃は忙しくて家で何かする余裕がなかったので、退職後は、自分で家の内壁を崩して塗り替えたり、リビングの床を張り直したり、台所を改装したりと、DIYに凝って充実した時間を過ごしているという60代半ばの人。

 仕事人間として暮らしながらも趣味人の生活に憧れをもっていたので、退職を機にテレビの俳句講座を視聴し、拙い俳句を詠むのが楽しくなり、昔の俳人の足取りをたどる旅行をしながら俳句を詠んだりして趣味人の生活を楽しんでいるという60代後半の人。

 学生時代は山歩きが好きでよく出かけていたのに、就職してからはそんな暇もなく、たまに暇があっても気力が湧かず、遠ざかっていたけど、退職後に久しぶりに山歩きに出かけてみたら、その魅力に取り憑かれ、今は毎週いろんな山に出かけているという60代後半の人。

 元々旅行好きで、現役の頃から毎年何回か旅行し、退職してからは時間も日程も自由になるので、より頻繁に行くようになったが、いつまで元気に出かけられるかわからないので、これからはもっと頻繁に旅行に出かけることに決めたという70歳になったばかりの人。

 いろんなことに興味をもち、やってみたいと思う性格だが、現役時代は忙しくて趣味に手を出す余裕がなく、淋しかったので、退職後は尺八教室や絵画教室をはじめ気になる習い事に片っ端から通い、暇をもてあますなどということはまったくなかったという80代の人。

 何をして時間を潰したらよいかわからないという人は、こうした事例を参考に、稼ぎのためにできずにいたことを思い返してみてはどうだろうか。

榎本博明 えのもと・ひろあき

 1955年東京都生まれ。心理学博士。東京大学教育心理学科卒業。東芝市場調査課勤務の後、東京都立大学大学院心理学専攻博士課程中退。カリフォルニア大学客員研究員、大阪大学大学院助教授等を経て、MP人間科学研究所代表。『「上から目線」の構造』(日経BPマーケティング)『〈自分らしさ〉って何だろう?』 (ちくまプリマー新書)『50歳からのむなしさの心理学』(朝日新書)『自己肯定感という呪縛』(青春新書)など著書多数。