ほんとうの意味での自信をもつというのは、現代人にとって最重要課題と言える。人から認めてほしいという気持ちはだれもが強くもっている。
しかし、人からの評価にとらわれすぎると、人の顔色を窺い、人の反応に一喜一憂し、気持ちが落ち着かない。どっしりと構えて生活することができない。期待通りの反応が得られないと、「自分はダメだ」と落ち込んだり、「なんで認めてくれないんだ」「褒めてくれてもいいのに」と不満をもつことになる。人からどう思われているかが気になるあまり、自由に振る舞えないという人も少なくない。
自分を大きく見せようとする人間も、承認と自尊の欲求に突き動かされながらも、心の中では自信がないのだ。だから、虚勢を張ってでも人からの承認を求めずにはいられない。
そして、4つの基本的欲求がそこそこ満たされると、その上層に位置づけられる「自己実現の欲求」が頭をもたげてくる。自己実現というと活躍することや成功することと勘違いしている人が少なくないようだが、それは違う。
以上のように、マズローの欲求の階層説に基づいて考えると、現代人の心の状態や行動パターンが手に取るようによくわかる。基本的な欲求が満たされないとき、人は自分を見失い、衝動の奴隷になっていく。
榎本博明 えのもと・ひろあき
1955年東京都生まれ。心理学博士。東京大学教育心理学科卒業。東芝市場調査課勤務の後、東京都立大学大学院心理学専攻博士課程中退。カリフォルニア大学客員研究員、大阪大学大学院助教授等を経て、MP人間科学研究所代表。『「上から目線」の構造』(日経BPマーケティング)『〈自分らしさ〉って何だろう?』 (ちくまプリマー新書)『50歳からのむなしさの心理学』(朝日新書)『自己肯定感という呪縛』(青春新書)など著書多数。