食べることに必要以上に執着したり、セックスなどの刺激や快楽に溺れたりする人の場合、より上位の欲求が満たされないために、下層の欲求段階に退行しているとみることができる。心の世界を共有できる親しい友だちができたり、愛情を向け合う恋人ができたりすると、生理的欲求への固着から解放されるかもしれない。何かで自信がもてるようになると、生理的欲求への依存度は自然に低下するものだ。

 このように、下位の欲求がある程度満たされると、より上位の欲求の追求が始まる。上位の欲求の追求が挫折続きになると、退行が生じ、下位の欲求充足に甘んじるようになる。そこでエネルギーを補給しているといった面もあるが、そこに固着してしまうと、より上位の欲求を求めるという方向に向かわず、成長が止まってしまう。

 生理的欲求がそこそこ満たされると、安全を求めるようになる。「安全の欲求」とは、身の安全や生活の安定を求める欲求、恐怖や不安を免れたいという欲求、混乱を避け秩序を求める欲求などである。具体的には、病気、事故や災害、失業、犯罪や治安の悪さなどを避けようという欲求である。

 現代の豊かで平穏な時代には、野獣や暴漢に襲われたり、犯罪に巻き込まれたりすることは稀であり、戦争が起こったり恐慌に見舞われたりということも滅多にない。地震などの天災は免れようがないし、交通事故も毎日そこらじゅうで起きているが、自分が被害に遭う確率はきわめて低い。

 だが、生活の安全や安定は、そのような劇的な出来事によって脅かされるだけではない。見慣れないもの、未知なものごとに対して身構えるのも、安全の欲求のあらわれと言える。貯蓄をしたり、保険を掛けたりするのも同様である。

 慣れないことに迂闊に手を出すと痛い目に遭うこともある。銀行預金の数倍も儲かると言われ、慣れない投資に手を出して酷い目に遭ったという人は数え切れない。安全の欲求は、そうしたリスクを避けさせてくれる。

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”安全”が満たされると”所属と愛”が前面に