どんな会社でも、いつか倒産する可能性がまったくないわけではない。会社の方針に我慢できなくなって辞めることも絶対にないとは言えない。上司に逆らってクビになる可能性だってゼロではない。病気になってしばらく稼げなくなることもあるかもしれない。そう考えて、貯蓄をしたり、保険を掛けたりする。そうすることで日々安心して暮らせるのである。
安全の欲求がある程度満たされると、「所属と愛の欲求」が前面に出てくる。所属と愛の欲求とは、所属集団を求めたり、友だちや恋人・配偶者を求めたりする欲求である。
マズローは、生理的欲求や安全の欲求が満たされると、それまでと違って友だち、あるいは恋人や配偶者、子どものいない淋しさを痛切に感じるようになるという。そして、愛情に満ちた関係を求め、家族・仲間集団・職場といった居場所となる所属集団を求めるようになり、居場所を手に入れるためにあらゆる努力をする。
現代の都会生活では、生まれ育った顔見知りばかりの近隣社会で暮らすということは滅多になく、むしろ隣人と言葉を交わすこともないという人が多い。親の転勤やマイホームの取得に伴って引っ越すことで、転校したり近所の友だちと離ればなれになったりするのも珍しいことではない。自分自身の進学や就職、あるいは転勤・転職に伴って引っ越すこともある。
このような移動性社会には、孤独が蔓延している。根無し草のような頼りなさを感じ、どこかに落ち着きたい、心から安らげる居場所がほしいと思う。人との触れ合いを求めたり、居場所となる所属集団を求めたりするのも、当然の心理といえる。
所属と愛の欲求がある程度満たされると、「承認と自尊の欲求」があらわれる。承認と自尊の欲求とは、他者から認められたい、高く評価してほしい、自尊心をもちたいといった欲求である。
ここには2つの側面がある。1つは、名声、評判、社会的地位など、他者から承認され、尊敬されることを求める欲求である。もう1つは、強さ、達成、成熟、自尊心など、自分に対して自信と誇りをもちたいといった欲求である。