「新型コロナクラスター対策専門家」というツイッターアカウントの「なかのひと」になった堀口逸子さんは、長崎大学歯学部卒、歯科医師免許を持つ公衆衛生学者である。昨年11月には、かわいらしい漫画がついた本『好きなものを食べてやせる食生活』(池田書店)を出版した。本を出したときは東京理科大学薬学部教授だったが、この3月で退職し、現在は非常勤の職を掛け持ちしながら「フリーの研究者」として活動する。内閣府食品安全委員会をはじめ政府の委員をいくつも務めてきた。「八面六臂の活躍」と形容したくなる、そのパワーはどこから湧いてくるのだろう。(聞き手・構成/科学ジャーナリスト・高橋真理子)
【前編:初投稿日「偽アカ疑惑」にどう対処? 新型コロナクラスター対策専門家「なかのひと」公衆衛生学者の使命と挑戦】から続く
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――最初から気になっていたことを質問させてください。なぜ歯学部に進まれたのですか?
紆余曲折あって、ですね。実は私は小6から中3まで、福岡にあるピアノの塾に通っていて、音楽学校を目指していたんです。片道3時間かかるところに毎週通って、超多忙な日々を過ごしていたんですが、中3のときに塾を辞めたんです。なんか、受かるための音楽をするのが嫌になってしまって。親はもう怒り心頭です。
父は旧長崎医科大学の卒業生で、でも開業しているわけではなく、友達の病院を手伝っている感じでした。私から見ると、対人関係が苦手な、いわゆる発達障害なんだと思います。
私が公立高校に入ったら、父は「義務教育じゃないので、20番以内に入らなかったら学校やめてください」と言ったんです。
――え~! それは厳しすぎるんじゃないですか?
1年生の最初の試験で22番ぐらいになり、それでとりあえず許してもらった。私はピアノが大変だったので、ラクをしたいという思いが強かったんですよ。ピアノをやめたのなら医学部に行ってほしいというのが父の要望でした。でも、お医者さんというのはすごく大変そうで、親戚には歯医者もいて、歯医者はそこまで大変そうじゃない。これは絶対歯医者のほうがいいと思って歯学部に行きたいと言ったら、父から大反対された。「東京大学に行くしか意味がない」とも言われた。結局、進学先で父とすごくもめて、私は3年間引きこもっていたんです。