新著を手にする浅野拓磨さん=東京都中央区の朝日新聞社、小林正明撮影
新著を手にする浅野拓磨さん=東京都中央区の朝日新聞社、小林正明撮影

 実は、本ができあがるまでの経緯にも、ドラマチックさを感じています。

 ケガを抱えながらW杯カタール大会の日本代表に選ばれた22年11月1日。代表発表直後に、ドイツのボーフムでインタビューをしました。約1時間半、ケガをしてからの日々を中心にたっぷり思いを聞き、取材を終えようとしたところで、浅野選手に言われました。

「僕がゴールを決めたら、本を出したい。そのときは一緒にやりましょう」

 正直に言うと、私自身はW杯取材に忙殺される中で、このことはすっかり頭から抜け落ちていました。ドイツ戦の勝利の後でさえも。

その後、浅野選手から声をかけていただき、「本当に本になるのか」とまさに夢うつつの心境でした。

 でも、浅野選手は違いました。

「ロシア大会が終わった後から、W杯に出て本を出してやろうと考えていた。カタールまで、そのときそのときに感じていたことをちゃんと口に出して、それを取材してもらい、W杯が終わったときにひとつの良いストーリーになるように。口に出すことで『W杯を本気で目指す』という良いサイクルができていた」

 まさに有言実行。発した言葉で自らを奮い立たせ、思いをかなえる。ただただ、脱帽するばかりです。

 そんな浅野選手のおかげで、この10年間、彼の記事を書く多くの機会に恵まれました。思えば、彼のことを執筆する際は「書きたい」という思い以上に、「彼が書かせてくれた」「自分が書かなければいけない」という気持ちになることが多かったです。

 夢をかなえることはもちろん、生きていくことだって簡単ではありません。嫌な思いをすることもあれば、何かをあきらめ、投げ出したくなることもある。

でもそんなとき、浅野選手の歩みや考えが頭をよぎります。

「ここでもうひと踏ん張りできるかどうか。未来の自分のために」

 職業も、生きてきた道も違っても、私自身、干支(えと)で一回り違う青年から刺激をもらっていたのだなあ、と改めて感慨深くなります。

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