ドイツに勝利し喜ぶ浅野拓磨=2022年11月23日、ハリファ国際競技場、伊藤進之介撮影
ドイツに勝利し喜ぶ浅野拓磨=2022年11月23日、ハリファ国際競技場、伊藤進之介撮影

 それでも、いっさい手を抜くことなく、練習に全力で取り組み続けました。朝は誰よりも早くクラブハウスに行き、一番最後に帰る。帰宅後はさらに約10キロのランニングをしていたそうです。

「自分の夢、W杯があったので、ぶれる必要はなかった」
「絶対、W杯に行くって決めていた。そうしたら、1日もサボれない」

 芯の強さを感じる話です。

また、新著でも、こんな言葉を残しています。

「努力とは、いま現在の自分が決めるものではなく、未来の自分が決めるもの」
「我慢の時間はその最中は苦しく感じるもの。だけど続けていると、必ず明るい未来につながっていく。そのことを僕は知ってしまっている」

 たゆまぬ鍛錬の成果が、大一番で実を結んだだけ。浅野選手はそんな風に捉えているようです。

 ただ、その勝負強さには何か秘訣(ひけつ)があるのではないか。

オンラインイベントの視聴者からも、そういった質問が寄せられました。

 浅野選手は公式戦前夜に緊張で眠れず、寝不足で試合に臨まざるを得ないこともあったと明かし、こう言います。

「普段通りの行動ができても、普段と行動が違っても、何も感じないこと、焦らないこと。何かができなかったからダメだ、などと考えないこと」

 だから、試合へ向けてのルーティンなどは特に作っていないといいます。

「その状態の自分で、やれることに100%(の力)を注ぐ」

寝られないかもしれない。そんな自分をありのままに受け入れる。実際に寝不足で完璧なコンディションでなくても、ゴールを取れたこともあるそうです。

 何かにすがるのではなく、現状を受け入れ、その中でどうベストを尽くすか。

結果を出す人の考え方が垣間見えてきました。こうした思考と行動を愚直に繰り返し、積み重ねたものの一端が結果として現れる。そんな感覚なのでしょう。

 どうしても、派手な結果に目がいきがちです。でも、その裏にあるものこそ、浅野選手の歩みをよりドラマチックに彩るのだと思います。

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