■下がり続ける教員の指導力

2020年代に、ベテラン教員の大量退職に加えて採用倍率が低下することで、教員の質が下がる恐れがある
2020年代に、ベテラン教員の大量退職に加えて採用倍率が低下することで、教員の質が下がる恐れがある

 現在も、教員の指導力は下がり、全学習活動に対する学校の支配力も下がり続けている。

 その理由の1つは、教員の年齢構成からくるものだ。一言で言えば、学習指導でも生活指導でも、ノウハウを熟知したベテランがいなくなる現実を指している。

 自治体によっては4割を占めていた50代の教員が、2020年代中には現場から姿を消すからだ。

 なぜ、教員の年齢構成が歪んだワイングラス型、というよりシャンパングラスに近く、上の厚みが過剰で真ん中がくびれてしまうのか。

 原因は、採用の仕方である。50代以上、60代やその上の団塊世代にわたるかつての大量採用の反動で、現在の30代、40代を十分に採用できない時代があった。ゆえに50代の多くが退職する今、慌てて20代の教員、つまり大量の新卒を募集している状況なのだ。

 人手が足りないなら中途採用で補充すればいいじゃないか、と指摘する人がいるかもしれない。だが、それができるのはビジネスパーソンの場合だ。教員の採用ではそうはいかない。30代、40代の仕事盛りの時期に、しかも成功している人の場合はとくに、別の職種から教職に転じることに経済的な魅力はない。仮に転職を考えたとしても、大学に入り直して教員免許を取ってまで学校現場を目指す志のある人材は少ない。

 逆に、ビジネスの競争に敗れ、教員免許は学生のときに取っておいたから先生でもやるかと20代後半から教職を目指す人材はいるが、配置後に児童生徒にリスペクトされうるかどうかは、人間力次第だ。東京都は一時期中途採用に力を入れていたが、なかなか難しかったようだ。

 私企業でもそうだが、年齢層にこうした断層がある場合、ノウハウが共有されづらくなるのはよく知られた事実だ。ノウハウとは、研修会で学んだり、マニュアルに書けば伝承される、というものではない。一緒に学ぶ組織風土の中で、先輩から後輩に「ナナメの関係」で伝染・感染される性質のものである。自分のすぐ上に先輩がいればオン・ザ・ジョブ・トレーニングがなされ、英語の教授法も、いじめの対処法も引き継がれていく。

 しかし断層がある場合は、容易には引き継がれない。だから、学習指導のノウハウはもちろんのこと、学校でのトラブルの解決についても、ますます難しくなっていく。

 ちなみに、この世代間の断層のせいでノウハウが引き継がれなくなる現象は、警察組織でも同様に起きていた。20年も前に警視庁の中枢にいた人物から聞いたのだが、これからの捜査と検挙は、今日でいう警察のDX(デジタル・トランスフォーメーション)化にかかっていると看破していた。その頃からだろうか、防犯カメラやNシステム(自動車ナンバー自動読取装置)の映像をつないでいく捜査や、スマホでの振る舞いを証拠に検挙されるケースが増えてきたように思う。

●藤原和博(ふじはら・かずひろ)
1955年、東京都生まれ。教育改革実践家。78年、東京大学経済学部卒業後、現在の株式会社リクルート入社。東京営業統括部長、新規事業担当部長などを歴任し、93年よりヨーロッパ駐在、96年、同社の初代フェローとなる。2003~08年、都内では義務教育初の民間校長として杉並区立和田中学校の校長を務める。16~18年、奈良市立一条高等学校校長。21年、オンライン寺子屋「朝礼だけの学校」を開校する。 主著に『10年後、君に仕事はあるのか?─未来を生きるための「雇われる力」』(ダイヤモンド社)、『坂の上の坂』(ポプラ社)、『60歳からの教科書─お金・家族・死のルール』(朝日新書)など累計160万部。ちくま文庫から「人生の教科書」コレクションを刊行。詳しくは「よのなかnet」へ。

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