「私にとってのスーパーヒーロは母親」と語るロバート・グラスパー(撮影/今村拓馬)
「私にとってのスーパーヒーロは母親」と語るロバート・グラスパー(撮影/今村拓馬)

■若い世代に言いたいこと

「下の世代のミュージシャンから刺激を受けることも多いです。“トラップ・ハウス・ジャズ? なんだそれは?”と新しいジャンルについて教えられることもあるので」という笑顔で語るロバート。一方で彼は、「“若いミュージシャン、ラクしてないか?”と思うこともある」と苦言を呈する。

「音楽大学の学生から、インスタのDMなどで“あなたの楽曲の楽譜を見せてくれませんか?”と言われることがあるんですが、そういうときは“自分で聴いて、譜面に起こして、練習しろ”と返します。私が若いときは、ハービー・ハンコック、チック・コリアといった素晴らしいミュージシャンの作品のCDやカセットテープを聴き、譜面を書き、ひたすら弾いた。そうやって耳と身体と感覚を使って音楽をやってきたからこそ、今の自分があると思っています。筋肉はトレーニングで鍛えるべきで、簡単に身に付けることはできない。怠け者になるな!と言いたいですね」

 2022年にリリースされた『ブラック・レディオ3』は、コロナ渦の真っ只中で制作された作品だ。しばらくは「ずっと家のカウチに座っていなくちゃいけなくて、退屈でした」という状態だったが、つながりのあるミュージャンたちとリモートでやりとりし、遠隔的なセッションをスタートさせた。また、パンデミックの最中にアメリカで起こったさまざまな出来事も、彼に大きな刺激を与えたという。

「ジョージ・フロイドの死、それに伴う抗議運動。LAの自分の家の近所でビルが燃えたこともあったし、あの時期、アメリカで起きていたことは『ブラック・レディオ3』に強く反映していると思います。このアルバムに収録した『ブラック・スーパーヒーロー』という曲は、若者、特に黒人の若者に向けています。彼ら、彼女らにとって大切なのは、尊敬できるヒーローのような存在の人がいるということ。何が正しくて、何が間違っているか。夢を持つことの大切さ、そして、それを叶えることが可能なんだと教えてくれる人ですね」

 あなたにとってのヒーローは?と訪ねると答えは「母親」だという。

「私にとってのヒーローは、母です。昼はオフィスで仕事をして、夜はクラブで歌って、私のためにすごくがんばってくれた。母のおかげで自分は音楽に囲まれて育ったし、影響はとても大きいです」

(森朋之)

ロバート・グラスパー(Robert Glasper)/ジャズ/ゴスペル/ヒップホップ/R&B/オルタナティブ・ロックなど多様なジャンルを昇華したスタイルで、次世代ジャズの最重要人物として注目を集める現代最高峰のピアニスト。2012年、“エクスペリメント”名義でリリースした『ブラック・レディオ』が第55回グラミー賞「ベストR&Bアルバム」部門を受賞。ピアニストとしては初の受賞という快挙を達成する。20年にはH.E.R.とミシェル・ンデゲオチェロをフィーチャーした「Better Than I Imagined」で第63回グラミー賞最優秀R&Bソングを獲得。22年2月にリリースした『ブラック・レディオ3』は、第65回グラミー賞で「最優秀R&Bアルバム賞」を受賞。

*取材協力:ビルボードライブ

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森朋之

森朋之

森朋之(もり・ともゆき)/音楽ライター。1990年代の終わりからライターとして活動をはじめ、延べ5000組以上のアーティストのインタビューを担当。ロックバンド、シンガーソングライターからアニソンまで、日本のポピュラーミュージック全般が守備範囲。主な寄稿先に、音楽ナタリー、リアルサウンド、オリコンなど。

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