ただ、自分としても未熟だなというのは実感としてあった。教授職に応募しようと思ってみると、見えてくるものが変わってくる。たとえば、助教のときに伸び伸びと実験ができたのは、教授がいい環境をつくってくれていたんだなあということがわかってきた。実際、独立してみると、本当にそれはすごいことなんだなと痛感します。
――この研究所は以前から知っていたんですか?
はい。学生時代にちょっと見学に来たことがあって、その後は阪大時代にここで開かれた研究会に何度か参加しました。知っている先生がいらしたから、安心して応募したというのはありました。とはいえ、面接のときはすごく緊張して、どんなことを話したか全然覚えていません。
――現在の陣容は?
室長が2人、研究員が3人、研究補助員が2人、それから大学からの研究生が今は12人います。阪大時代に私は、すい臓が出すホルモンに神経回路を修復させる作用があることを見つけ、それから、いくつかの臓器から出てくる生理活性物質が老化で衰えた脳の修復力を回復させることも見つけた。脳の外にある臓器からの物質が神経回路に影響を与えることはそれまで明らかになっていませんでした。私の研究室には、こういう「臓器間ネットワーク」に興味を持っている人たちが来てくれているので、その基礎研究をもっと発展させていきたい。
最近は、それをどうしたら薬につなげられるかにも力を入れています。私個人としては、製薬会社の人や病院の先生たちとの共同研究に積極的に取り組んでいるところです。
――薬学に興味を持ったのはいつごろですか?
父が福井大学医学部の教授をしていたので、医療系に行きたいという思いは漠然と持っていました。小中学校は福井大学附属でしたが、附属は中学までしかないので、高校は県立です。高校時代は成績もあまり良くなくて。
医療系というと医学部が第一選択肢になると思うんですけど、受験勉強が大変じゃないですか。たまたま模擬試験で志望校を東北大学薬学部って書いたらそのときの評価が良かった。それでいろいろ調べていくと、なんか素敵な大学だなと。大きな大学に行きたいとは思っていて、それに東京や関西は就職してから将来行くことはあるかなと思って、東北大に入りました。