石塚幸子(いしづか・さちこ)/学生のとき、AID(非配偶者間人工授精)で生まれた事実を知った。AIDで生まれた人の自助グループ「DI Offspring Group」メンバー。共著に『AIDで生まれるということ』(萬書房)。DLJ理事、広報・事務局を担当(撮影/山田茂)
石塚幸子(いしづか・さちこ)/学生のとき、AID(非配偶者間人工授精)で生まれた事実を知った。AIDで生まれた人の自助グループ「DI Offspring Group」メンバー。共著に『AIDで生まれるということ』(萬書房)。DLJ理事、広報・事務局を担当(撮影/山田茂)

 提供精子による人工授精が日本産科婦人科学会登録の医療機関で行われる場合、提供者は匿名とされてきたが、海外では出自を知る権利を保障する法律や、提供者と生まれた人を結びつける仕組みを持つ国もある。日本でも出自がわからない苦しみを終わらせるため、当事者らが立ち上がった。AERA 2023年6月12日号の記事を紹介する。

【この記事の写真をもっと見る】

*  *  *

「自分が精子というモノから生まれたのではなく、『人が関わって生まれた』のだと確認したい。団体を立ち上げたのはそのためです。私たちがドナー(精子提供者)を知るためには、これしか方法がありません」

 AID(非配偶者間人工授精)で生まれ、出自がわからないことに苦しんできた石塚幸子さんはこう話す。石塚さんらは一般社団法人ドナーリンク・ジャパン(DLJ)を設立し、2023年4月に運営を開始した。

 ドナーリンクとは、提供精子や卵子で生まれた人と、そのドナー(提供者)、同じドナーから生まれた人同士を結び付ける試みだ。希望する当事者は、提供の時期や医療施設などの周辺情報をDLJに登録し、DNAマーカーリンク検査を受けられる。検査結果等を元に担当医師らがリンクの可能性を推定し、マッチング(血縁があると判断)した際はソーシャルワーカーが仲介して双方のやりとりをサポートする仕組みだ。現状、スタッフ全員が無償で担当業務をこなしている。

 なぜこのような団体が必要なのか。

 かつてAIDはドナーを匿名とし、事実を誰にも明かさない前提で行われてきた。だが海外では1990年前後からAIDで生まれた当事者らがドナーに関する情報を求めて抗議の声を上げ始める。結果、出自を知る権利を法で保障する国や州が増え、同時に法の施行前に生まれた人々を対象に国がドナーリンクに取り組む例が出てきた。

 日本でも戦後間もない時期から慶応大学病院でAIDの実施が始まり、2003年には石塚さんなどAIDで生まれた人たちが声を上げ始めた。しかし出自を知る権利を守るための法整備は一向に進まず、国によるドナーリンクの取り組みも期待できなかったため、しびれをきらした当事者と関係者らが自ら団体を立ち上げた形だ。

 原動力となったのが、冒頭に登場した石塚さんだ。石塚さんは約20年前、23歳のときにAIDで生まれた事実を母親から知らされ「人生の全てが崩れる」経験をした。以来「精子というモノから生まれた」という感覚に常に悩まされてきた彼女にとって、DLJの設立は長年の願いだった。

次のページ